いや、ね。別にね。本気じゃないだろうなあとはわかってたんだよ。
ヒソカだってバカじゃないんだし、積み上がる前のトランプタワーを崩したって何の意味もないことくらい、わかってるでしょ。今の先輩を殺すって、そういうことだよ。だから本気じゃないとはわかってた。
でもさ、好きな人を殺すって、本当に殺すことの出来る人に言われちゃったらさあ、焦るじゃん。絶対やめさせなきゃ、って思うじゃん。

だからって、この展開は読めなかったけどな?

「あのー、もしもーし。ヒソカー、ヒソカさーん」

あ、だめだな。これ完全に気ぃ失ってるわ。

ちょっとキレたというか、おこだよ? ってなっただけなのに。
先輩に手ぇ出したら殺すぞってね、お前は先輩の何なの? みたいな怒り方をしただけなんですよ、私は。今思うとヒソカ相手に何言ってんだかって感じなんだが。
でもそれだけなのに、気付いたらヒソカが倒れてた。なにこれこわい。

「――ッミズキ!」
「うわぶ、こ、コルトピ?」

ぺちぺちと気を失ったままなヒソカの頬を叩いていれば、後ろからいきなり抱き付かれる。大丈夫? 怪我はない? と私の全身を確かめてくれる姿はさながら天使のようだった。かわいいは世界を救う。
次いでシャル、フィンクス、マチが現われ、私とヒソカの様子にわかりやすく驚いていた。ていうか何でみんなここだってわかったの。気配? 気配ってやつ?

「何でヒソカが倒れてんの? え、これミズキが!?」
「んなわけねえだろ、こいつ念も使えねえんだぞ」
「でも、ここにはミズキしか……」

本当に落ちてるヒソカを、シャルとフィンクスが蹴ったり叩いたりして確認する。確認の仕方が雑すぎて笑う。笑えてないけど。

「ミズキ、いったい何があったんだい?」

そんなヒソカを豪快に蹴飛ばし、マチが私の正面に膝をついた。ヒソカの扱いよ。
マチの感情は、心配してくれてる半分、何かを疑ってる半分、ってとこだろうか。でも心配してくれてるだけ、ありがたい。
先輩が来てないことだけを確認して、ええと、と言い淀む。何があったのか、って言われても、あんま詳細話したくもないし。

「ちょっとヒソカに怒ったら、なんかよくわかんない内にヒソカが気を失ってて……私も何が何やら」

私自身の中で出た結論は、トリップ特典がやばい、の一言で済むのだけど。トリップ特典をどう説明したもんかは私にもわからないので、苦笑するしかない。
とにかく下に戻ろう、というシャルの言葉に従って、私たちは階段を降りていく。もちろんヒソカは放置されていた。


 +++


ヒソカに懐かれた。

あの日以来ヒソカにめちゃくちゃ追い回されている。うっかりノータッチKOをキメた私を、よりいっそう気に入ったそうだ。迷惑極まりねえ。
ほんっとに、どこに行くにもついてくるから、困る。
まず煙草が吸えない。なんとかまいて煙草に火をつけた瞬間、どこからともなく現われて煙草を奪い取ってくる。「ダメだよ」ってハートマーク飛ばしながら。うざい。
次にタカト先輩と、加えて旅団のみんなとも、ろくに話が出来ない。誰かしらに話しかけようとしたら、ねえミズキ、って後ろからいきなり抱き付いてくる。無駄にドキッとする自分にも腹立つ。だって顔はイケメンなんだ。
更に、これが私としては一番問題なんだけど、コルトピが怖い。怖いっていうかもう恐ろしい。常にヒソカに向けて殺気をビシバシ飛ばしてる。それに呼応してヒソカまでいろんなものがビンビンになってるから、本当に心の底から勘弁してほしい。なにこの挟み撃ち。

「ヒソカまじで帰んねえかな……」

とりあえず今のところはまくことが出来たけど、絶も出来ない私じゃあどうせまたすぐに見つかるんだろう。んで無駄なボディタッチをされるんだろう。
元彼がそんな感じだったから慣れれば相手する気も失せるんだけど、さすがにまだ慣れない。でも恥ずかしがるとかそういう段階はなかった。軽くすっ飛ばした。

「ミズキ、見ぃつけた」
「ひいホラーかよこっち来んな」
「そんな酷いこと言わなくてもいいじゃないか」

崩れた壁と壁の隙間からぬうっと顔を覗かせたヒソカにマジビビりをしている内に、隙間をくぐり抜けたヒソカが両手を広げて迫ってきている。
私は当然、逃げた。くるりと踵を返して、窓から外へ飛び降りる。ヒソカも普通に飛び降りてきた。ですよねー。

「もう、ほんっと、いい加減にしてくれ!!」




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