あれこれはさておき、まあそれでもヒソカが推しの一人であることは事実なので。 「ヒソカは当分ここにいるの?」 少し落ち着いてから問いかけると、う〜ん、だなんてわざとらしい声を漏らしてヒソカは悩んでます、のポーズをとる。 さっさと答えてくれめんどいから。 「そうだねえ、ミズキとタカトがボクに居てほしいなら、居ようかな」 「だそうですよ先輩」 「俺はいらねえ」 だ、そうですよヒソカさん。 ヒソカはえらく私と先輩を気に入ってしまったらしい。ここにいる旅団員と比べれば一番弱いと思うんだけど、あれだろうか。熟れる前の果実的扱いなんだろうか。 そんなヒソカは今、私の真後ろに座っている。後ろから視線と気配だけビシビシ感じるのが本気で嫌なんだけど、どれだけ移動してもついてくるから諦めた。 先輩はフィンクスに守ってもらっててずるい。私も一応、コルトピが隣でヒソカを威嚇しててくれてるけど。 「そういえば、クロロはどこ行ったの?」 「団長なら、ヒソカが来るなら消えるってメール残してどこか行ったよ。残りの仕事は適当に任せるって」 「雑ぅ……」 コルトピに見せてもらった携帯には、確かにクロロからのメールが入っている。ヒソカが帰ったら教えろって書いてあるけど、いつ帰るんだろうねヒソカ。全然帰る気配ないけど。 ていうかクロロ、ヒソカのこと嫌いすぎでは。 まあでも、てことは当分クロロ改めハゲには会わないってことか。連日連夜続いてた異世界話も一旦打ち止めである。やったぜ。 いや……でもヒソカかクロロか、って言われたらクロロの方がマシなような……いやでも……しかし……うむむ。 つーかめっちゃ視線感じるんですけど、ヒソカさん私のこと見過ぎじゃない? 気のせい? 隣のコルトピがめっちゃ怖いんだけどそれも気のせい? 自意識過剰? 視線を物質化出来るような能力がヒソカにあったら、今の私はもう蜂の巣なのでは……と思いつつ、ちらりと背後に視線を送ってみる。 「……」 あ、うん、すっげえ笑顔でこっち見てたわ。自意識過剰じゃなかった。 「ねえ、ミズキ」 ようやく私が反応を示したからか、ヒソカはわざわざ私の隣に座り直して、満面の笑みで話しかけてくる。コルトピの威嚇っぷりがもうケンカしてる時の猫レベルだ。髪の毛が逆立ってもおかしくない勢い。 ひい……両隣が怖いよお……と内心ぷるぷる震えていれば、にいんまりと口角を上げたヒソカに、思わぬ爆弾を落とされた。 「キミ、タカトのこと好きでしょ」 「ッは!?」 「バラしてあげようか?」 にっこり、はあと。 何言ってんだこのクソピエロ。えっ、ていうかなんでわかっ……え!? 「そうだなあ、バラしてほしくなかったら、」 「っあああウンソウダネー! 私もちょうどヒソカとじっくり二人っきりで話してみたいとオモッテタンダー! うんそうしよう今すぐ話そうじゃあ二人っきりになれるとこに行こっかイマスグニー!」 「おやおや、積極的だね」 「ソウカナー!?」 猛スピードでヒソカの腕を引っ掴み、ゴメンネコルトピマタアトデー! と完全に壊れたロボット状態で言い残してから屋上へ向かう。 あの場にいたみんなが唖然としてたけどそんなの気にしてらんねーわ。先輩に先輩のこと好きだってバラされるくらいなら地獄にダイブする方を選ぶわクソが。 くっそこのエセピエロ、いちいちいちいち語尾にハートマークつけた話し方すんのが腹立つ!! 辿り着いた屋上にて、投げ捨てる勢いでヒソカから手を離し、私は私で崩れ落ちるように地面に膝をつく。別に疲れてはない。でも心は疲れた。 「煙草吸っていいすか」 「未成年の喫煙は禁止されてるんだよ?」 「うっせーよ知ってるわイラついてんだよ今」 問答無用で煙草に火をつける。 もう……ほんと……なに……。こいつ何がしたいの。何が目的であんなこと言ったの。こういう意味のなさそうなことする辺りがほんと苦手。 ため息と一緒に、煙を吐く。その瞬間。 「せっかく美味しそうなんだから、こんな不味そうなモノ吸っちゃダメ」 ヒソカに、煙草を奪い取られた。うわ、いきなりすぎて目も反応も追いつかなかった。一口しか吸ってないのに消されてしまった煙草を勿体ないと眺めつつ、嫌がられてまで吸う気にはなれなかったので煙草とジッポをポケットにしまう。 それでいい、とヒソカは機嫌良さげに笑っていた。さっき一瞬、すげえ怖い顔してたくせに。 それで、結局何であんなことを言ったのか。 問いかければ「あんなこと?」とはぐらかされてしまい、苛立ちゲージがまた一つ増える。舌打ち連発待ったなしのやつだ。 「だから、私が先輩を――……えー、その、あれだって」 いざ口にしようとすると恥ずかしさが先立ち、ごにょもにょと濁す。 「ああ、ミズキがタカトを好きだってことかい?」 ちくしょうニヤニヤすんな腹立つ! 怒りとか恥ずかしさとかを通り越していっそ泣きそうになりながら、胡座をかいて、立ったままのヒソカを見上げる。ヒソカは至極楽しそうに、笑みを深めていた。 「もったいないなあ、と思ってね」 「……もったいない?」 ――曰く。 潜在能力だけで言えば、私は旅団員の誰よりも、下手をすればヒソカよりも勝っている。そんな私が、自身よりも劣るタカト先輩の後を追いかけているのは、愚かだと。 もっと強い人と関われば、戦えば、もっともっと強くなれるだろうに、ここでのんびりしているだけなのは勿体ない、と。 そういうことだった。ヒソカが言いたいのは。 「それと、私が先輩を好きだってこととは、別に関係なくない」 だいたいタカト先輩も、どれくらいかはわかんないけど、トリップ特典で強くなってると思うんだけど。この前目覚まし時計を止めようとしたら勢い余って潰した、って落ち込んでたし。 取り繕うこともせず、あからさまに機嫌を損ねました、といった顔でヒソカを見上げる。 私が誰を好きだとか、ヒソカには関係ないはずだ。そもそも何で今日会ったばっかの奴にそこんとこどうこう言われなきゃなんないわけ。どっちにしろ腹立つけどまだクロロに言われた方が納得……はしないな、納得はしないけどまあ、イチミリくらいはわかるわ。 「ボクと来れば、ミズキはもっと強く、美味しくなると思う」 「で?」 「ここに居るのも面白いだろうけど、もっと色んなところを見て回った方がいい」 「で?」 「行きたくないのかい? 他の国や、街に」 そりゃ行きたいけど。クジラ島とかヨークシンとか、パドキア共和国とかね。あと流星街も見てみたいし、カキン国もちょっと気になる。 でも、それは今行く必要のある場所じゃない。 確かに強くなった方が後々楽になるだろうし、私だってそう遠くないうちに念は覚えておきたいなって思う。 でも、理由は知らんけど、ヒソカはただ私とタカト先輩を離したいだけじゃん。もしくは私と旅団を。意味わからん。 「別に、今はいい」 「タカトがいるからかい?」 「それもあるけど、私旅団のこと好きだし。わざわざ離れて、あんたに着いてく理由がない」 ふうん、とヒソカは何かを考えるように喉を鳴らす。そうして、じゃあ、とにっこり、唇を歪めて。 「タカトのこと、殺しちゃおうかな」 予想外の言葉を、吐いた。 ← → 戻 |