数日後。思ったよりも平和だなあ、なんて考えながら、私は今日も屋上で煙草を吸っている。 どうやら今はこの仮アジトを中心に、あちこちから色んなものを盗ってきてるらしい。まだ当分は本拠地に戻ることも、別の仮アジトへ行くこともしないようだ。となると、ほんとにいっそどこかの部屋を修理するのもアリかもしれない。 買ったばかりの服は、普段着ないような高級品だから最初は少し緊張したけど、それもなんだかんだですぐ慣れた。なにより新しい服を着るってのは、やっぱりテンションが上がる。 悲しいかな特に出かけるところはないのだけど、それでも先輩の目には映るわけだし。出来るだけのおしゃれはしたいよね。 今日はなにを着ようかな。コルトピに選んでもらった服にしようか。パクとコルトピが何着か選んでくれた服も、センスはいいわ私の好みにもドンピシャだわで、いっそ全部選んでもらえばよかったって思う。おしゃれが楽しい。 しっかし、この煙草はあんまり美味しくない。なかなかお気に入りの味に巡り会えず、ため息交じりに煙を吐きだす。 元の世界から持ってきた煙草は、ちびりちびり吸って残り三本。泣きそうだ。無くなるまでに美味しい煙草と出会いたい。 そういえば、仮アジトにいるメンバーがこの数日で少し変わった。シズクとウボォーがいなくなって、代わりにマチがやって来たのだ。 最初は訝しげな感じだったけど、今のとこある程度は話せてるので嬉しい。やっぱり女性陣とは仲良くしたいでござる。 煙草を吸い終え、ほとんど物置として使っている部屋で着替えてから一階の大部屋に向かう。と、そこは何故だか異様に暗い雰囲気で満たされていた。 めんどい、最悪、クソ鬱……みたいな、そういう感じの雰囲気。先輩だけがきょとんとしている。 近場にいたマチに歩み寄り、どうしたの? と問いかける。マチは深いため息をついてから、ちょっとね、と更にため息をついた。 「あいつが来るんだとさ」 「あいつ?」 ぐるりと周囲を見れば、フィンクスがダントツで嫌っそうな顔をしていた。フィンクスがあんだけ嫌がってて、マチもめんどくさそうで、みんなもテンション下がってて、ここに来るような人……。 一人しか心当たりないんだけど。もしかして、マジでか? 思わずなんともいえない顔をしてしまえば、マチが無言で携帯の画面を見せてくる。 「なにか面白い予感がするから、そっちに行くよ、はあと……」 「ヒソカって言ってね……面倒臭い奴さ」 わあ、予想当たってた。 +++ 「へえ、気に入った」 「気に入られた……」 数時間後、予告通り仮アジトに現われたヒソカは、マチやシャルと軽く――とても一方的な――会話をしたあと、私の元にやってきた。 「面白そうな予感の正体は、キミかな」なんてわかりやすくハートマークをつけていたので、若干引いてしまったのは許されたい。 一分ほど全身を舐め回すように見られた挙げ句、にんまりと笑っての言葉が、気に入った、だ。あまり嬉しくない。 「名前は?」 「ミズキ……です」 「僕はヒソカ。よろしくね、ミズキ」 「はあ、どうも……」 なんというか、こう、あれなんだよな。ヒソカ、苦手なんだわ。 顔は好きだし体格も好きだし戦闘スタイルも好きだしキャラも嫌いじゃないんだけど、やっぱり苦手。 だって、旅団の敵だし。でもゴンの成長には必要な存在だし。 私が理解できる範囲の目的が見えない上に、どう扱うのが正解なのかもまったくわからない。そういうとこが苦手。一言で言うと「こいつこわい」です。 タカト先輩が目を付けられないことを心の底から祈る。多分無理だろうけど。 「その怯えた顔、たまらないなァ……食べちゃいたい」 「ひえ……」 思わずゆっくりと後ずさって、マチの後ろに隠れてしまった。ごめんマチ。でも近距離で舌舐めずりされるのはガチめにただのホラーだった。夢に見そう。 ヒソカは気にした風もなく、私とマチから離れて、今度はタカト先輩の元へと向かう。せ、先輩逃げてー! 「うん、キミも美味しそう」 先輩、一度も振り返らずに全力ダッシュで逃げてー! 「ヒソカ、だっけ? お前、人の肉食うの」 「あはは、そうだねえ。キミの肉だったら、食べてもいいかも」 「……フィンクス、俺、こいつに近寄りたくない」 「ああ……じゃあこっち来とけ」 せ、先輩はっきり言う〜……。 私とタカト先輩の両方に拒否られたからか、わざとらしくしゅんとした表情を見せたヒソカにはうっかりきゅんとしてしまったけど、すぐに意思を強く持つ。危ない危ない、ヒソカは好きだけど敵なのだ、萌えてる場合ではない。 ……ところで、あの、話は変わるんですけど、タカト先輩とフィンクスの仲良しっぷりにあらぬ想像をしてしまいそうになるの、私だけですかね。夢小説以外もたしなむオタクだったことが原因なだけですかね。 だって距離近くね? ねえ気のせい? え、これマジでそういう展開にならないよね。なったら私ちょっと神様にケンカ売りに行きそうなんだけど。大丈夫だよね? ねえ神様! ← → 戻 |