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居心地が悪い。
いたたまれない。
帰りたい。

対面式になっているキッチンでは今、あの赤司が何かをしている。匂い的に多分コーヒーの用意。
私はふっかふかのソファーに何故か正座だ。制服のまま。

2LDKってとこだろうか。
かなり広い部屋で、私と赤司が、2人暮らし。
どういうこっちゃ。
私の想像では、赤司は古風な豪邸に家族と、使用人もいたりする感じで、住んでいると思っていたんだが。
ていうか赤司さんのご両親はどしたんすか。
いや私の両親も気になるけれど。

しかも私がここに、多分中1から住んでる?ってことは?多分、赤司も一緒に住んでたってことでしょう?
なのに名字呼びであの態度?やばくね?
私も赤司もストレスで入院しそうだと思うんだけど。よくもまあこの1年半、だろうか、なんの問題も無く同居出来たな。この世界の自分を素直に尊敬する。

「つばき、」

ことん、とテーブルに置かれたカップからはコーヒーの良い香りがする。
しかしたっぷりの牛乳が入ってもはやカフェオレと化しているそれは、私のコーヒーの飲み方を熟知しているようだった。こわ。

ていうか今、名前呼ばれましたね。学校での名字呼びはなんだったのだ一体。

「今日のお前、本当におかしいぞ?どうしたんだ。テツヤにも話さないなんて」
「優しさが今純粋に恐ろしい」
「死にたいのか」

滅相も無い。

正座したままの私の隣に座り、脚を組んで、優雅にブラックコーヒーに口をつける赤司様まじ麗しい。これ写真に撮りたい。
とか言ってる場合じゃないことはわかっているんだが。

「僕にも、話せない事なのか」
「いやあ…そのですね」

どうしたものか。
カフェオレを飲みながら、思案する。ていうかこのコーヒー美味しいな。インスタントか缶コーヒーしか飲んだことないけど、今まで飲んだどのコーヒーよりも美味しい。
まじ赤司ハイスペック。ちょっと引くレベル。

「ちょっと電波扱いされかねないんで、あまり話したくないといいますか」

しかし、まあ、現状を考えれば、黙ったままで居続けるのも至難の技だろう。
この世界での自分の立ち位置がまったくわからない。学校での友達が誰なのかも知らない。キセキとの関係も、赤司との関係も、なにもわからない。
そんな状態で学校生活を続けるとか無理ゲーもいいとこだ。少なくとも私には無理。

どうせトリップするなら赤ちゃんからの転生トリップが良かったですね!
それかもしくは説明書とか渡してほしかった。唐突すぎるよこんなの。


赤司は私の言葉が意味わからないらしく、コーヒーに口をつけたままきょとんと目を丸くしている。やだかわいい。
こく、と小さくのどが鳴って、赤司はテーブルにカップを戻した。

「良いから、話せ。それでどう思うかは、僕が決める」
「…はあ、じゃあ、わかりました」

とは言えどう話せばよいものか。
無い頭をひねりながら、言葉を探し、ぽつりぽつりと話し始めた。


自分はもともと、一人暮らしをしている大学生だった。レポートが溜まっていて、早く終わらせねばと徹夜覚悟で作業をしていたら、いつの間にか転寝をしてしまっていたらしい。
目を覚ませば帝光中の図書室。隣には黒子。わけがわからず夢だと思いながら残りの授業を過ごし、懐かしすぎてわけがわからない授業内容に頭を抱えた。
放課後はまた黒子と図書室へ。そこで赤司・紫原と初対面を果たし、最終的に1人で下校。
しかし家がわからず、でたらめに歩いていればマジバが見えたので入店。そこで赤司・黒子と再会。そして黄瀬・青峰と初対面。どうやら青峰と仲が良いらしい事がわかる。
その後は5人で帰路につき、なぜか高級マンションが我が家で、しかも赤司と同居というオプション付き。まじ意味不。

と、まあ現状をさかのぼって説明するのなら、こんな感じだろうか。
話し終えた私がおそるおそる赤司を見やれば、彼は真剣そうに、腕を組んで考え込んでいるようだった。

「…つばきの話が正しいと、そういう前提で聞こう。ならば何故、お前は僕たちの事を知っていた?」

暫く経って口を開けば、そんなことを聞かれる。
えええこれ言っていいのかな…と思いつつも他に良い言い訳も浮かばず、仕方なしに黒子のバスケ、という漫画の事をかいつまんで説明した。

赤司の目が、小さく見開かれる。
少しの間の後、かぶりを振って、溜め息をついた。

「むしろ、その大学生になったまでの生活の方が、夢だったんじゃないか」

なにその胡蝶がどうたらみたいな話のアレ。
我夢に胡蝶となるか胡蝶夢に我となるか、みたいな感じだっけ?違ったら恥ずかしいから口にはしないけど。

まさか、夢だとしたら、確実にこっちが夢だ。
それこそもしかしたら、今日晩眠りにつけば、私は元の世界に戻っているかもしれない。というか、正直そうであってほしい。

「逆に聞くけど、この世界での私ってどういう立ち位置なんですか」
「、それは…」

赤司が、言い淀んだ。
ほんの数時間程度の付き合いだが、珍しいなと思う。

言うべきか、言わざるべきか。
彼は悩んでいたようだけれど結局、口を開いた。

「…僕とつばきは、いとこだ。小学6年生の時にお前の両親が事故で無くなり、うちが引き取った。ここで僕と住んでいるのは、実家だとつばきが心休まらないだろうと思ったから。学校では、…つばきが僕を避けている事が多かったね。だから今日は、少し、驚いた」


コーヒーの入ったカップを再び手に取り、赤司は、ひどく悲しそうに…微笑んだ。


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