30


うっすら、目を開く。
どうやらレポートを書いている途中でうっかり寝落ちてしまったらしい。
あーもー提出期限明日なのに。今何時。
そんなことを考えながらうつぶせていた顔をあげ、私は、制止した。

「レ、レポート書き終えてる…!やだ私の無意識って天才!?」

開かれているワードには、ばっちり書き終えられたレポート。考察やらなんやらまでしっかり。ていうか私が書くより上手い気がする。
どういうことなの…今後はレポートに詰まったら居眠りすればいいの…そしたら妖精さんがレポートしてくれるの…?

マウスでぐりぐりとスクロールしていきながら、全体を眺める。
いや、まあ出来ていたことにはありがたさしか浮かばないんだが。
ふと、1ページの余分があることに気付き、再びスクロール。
そのページの最後には。

「ありがとうございました、ねえ…」

夢だけどー!夢じゃなかったー!みたいなアレですか、そうですか。

いつの間にか閉められていた部屋の窓を開け、ベランダに出る。
うおっさむっ、なんて独り言を呟きながら、口の中に残った紅茶の味に小さく笑った。

こっちの世界じゃ、ほんの30分程度。
でも、あっちの世界では一ヶ月ちょっとの出来事。
そんなにも長い間、私はあの2人に挟まれていたのか。お疲れさまだよ自分。後ではちみつたっぷりのホットミルク飲もうね…!

「いやーでも、赤司も黒子も、可愛かったなあ」

携帯持って帰ってたら、写メが残ってたのだろうか。
いやしかしあの携帯はあっちの世界の物だし持って帰ることは出来ないのか。無念。
特になんかをもらったーとかも無いしね。
きっとその内、忘れていくんだろうと思う。

「まあ頑張って楽しく生きたまえ、少年少女たちよ」

深夜テンションな発言をしつつ、体が冷えてきたので室内に戻る。
そこで、私の体は、ぴしりと固まった。

「な、なんだこれ」

机の上にこれでもかってくらい置かれている、高そうなお菓子やら豆腐やら本やら。あとマジバのロゴが書かれたバーガーが数個とシェイクっぽいカップが一つ。欲しかったスニーカーやペンケースもある。
そして私が3年ほど愛用していた傷だらけの携帯の隣に、そっと置いてある綺麗な携帯。

おそるおそる開いてみれば、赤司と黒子、青峰、黄瀬、緑間に紫原、桃ちゃんと、私…が、みんな笑顔でピースしている写真が、待ち受けになっていた。
す、すげえ。三次元仕様。みんなイケメンだし美人だな。そこに混ざる私がなんとも言えねえ。

えーと、原理はわからんが、つまり。

「お礼、てこと、ですか」

とりあえず当分、食料には困らなそうだけど。

溶けたら困るなと一番最初に口をつけたマジバのカップは案の定、バニラシェイクで。
やっぱりそれは、甘くて冷たくて、美味しかった。無性に、泣きたくなるくらいには。

「…バニラシェイクうま…」

ずごご、と音を立てながらバニラシェイクを飲みきって、寒いのにこんなもの飲んじゃったらお腹壊すかもなあ、なんて考えながら、空になったカップをゴミ箱に放った。


「ごちそうさまでした」


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