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髪を低い位置でふたつにくくった、中学生くらいの女の子が目の前に立っている。
対して私の髪は肩につくかつかないかってところで、おろされていた。

ああ、この子は、中学の時の私だ。
てことは、この子があの世界のつばきだろうか。
彼女は俯かせていた顔をあげると、申し訳なさそうに微笑んで、ありがとうとごめんなさい、2つの言葉を口にした。

「私じゃ、あの2人から、逃げられなかったから」
「結局逃げなかったけどね。でもま、もう大丈夫だとは思うよ。あとは君次第」
「そう、ですね。でも、私は…」
「…実は青峰が好きだとか言わんよね?さすがにそんな展開になったら赤司と黒子泣くぞ」
「そ、そういうわけじゃ」

歯切れの悪い子だ。
ああでも、私も中学の時はこんな感じだったなあ。
おどおどして、周りにどんな目で見られてるかが気になって、自分の意志じゃ動けなくて。
全部、全部諦めて。妥協しながら生きていた。

「私は君じゃないから、なにも言えないけどさ」
「…はい」
「やりたいことや言いたいことがあるなら、諦めないで、自分の意志をちゃんと持ちなよ。人生の先輩からのアドバイス」
「あ、あの、あなたは…私に、怒らないんですか」

両手を胸の前で握りしめている彼女に、小さく笑う。

「怒らないよ。いい体験させてもらいました」

一歩、二歩、三歩。彼女に触れられる距離まで近づいて、ぽんぽんと軽く頭を撫でた。
びっくりしたのか顔を上げる、あの世界のつばき。柔らかそうなほっぺをぐにんと引っ張れば「…いはいれす」と眉を寄せられる。

「赤司と黒子によろしく。つばきも、ちゃんとあの2人…だけじゃないか。みんなと向き合って、生きるんだよー?」
「、はい。…ありがとう、つばきさん」

おどおどとしていた視線が、まっすぐになる。

いやあ第三者のモブ的な立ち位置で、この子らがこれからどうなるのか見てみたくなりますな。
黒子がキセキと仲違いしない世界。
赤司がキセキ厨でめんどい人な世界。
この子…つばきが、彼らといる世界。
きっと楽しいだろうな。モブ視点なら。
私がつばきになるのは勘弁願いたい。

そこで、はっ、と一つのことに気がついて、口を開こうとした。
けど、目の前にいたはずの彼女はもう、消えていて。


「わ、私のレポートは…どうなったんすか…」

絶望気味な私の声だけが、この世界に響いた。



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