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終礼の終わりを知らせる、チャイムが鳴る。
大学生活をしている私には、この中学校のチャイムというものがいやに懐かしく思えて、涙が出そうになったのは内緒だ。

ああ、学生時代もっとちゃんと勉強しておけば良かったなあ、と。
どうやら中学2年生らしい黒子と同じクラスで授業を受けながら、結局なにもかもがわけわかんなかったのを思い出して頭が痛くなる。
え…中2の時ってこんな難しいことやってたっけ…?数学まじ意味わかんない…。

机の上に出しっぱなしにしていたペンケースとノートを、私のものらしい指定カバンへとしまう。
ペンケースが、以前お店で一目惚れはしたものの買うこと叶わなかった物だったのに気付いて、こういうところはやっぱり夢なんだなあと苦笑した。

「相坂さん」
「あ、はい?」

カバンから目を離し、声の主を見上げる。
私の机の前に立つのは黒子で、図書室行きましょう、と告げられた。
なるほど、放課後も私たちが図書当番なのか。
私のいた中学校では昼休みと放課後の図書当番は交代制だったので、なんとなく目新しさのようなものを感じながらも、図書室に向かうため席を立った。

しかし、覚めないなあ、と思う。
この夢を見始めて…2、3時間、ってところだろうか。
夢と現実での時間の早さは一致しないと思うんだが、現実では一体どれだけの時間が経っているんだろう。
現実での時期は11月手前。窓を開けて作業をしていたから、このまま転寝を続けていれば風邪をひいてしまうかもしれない。
なるべく早く起きて、レポートを終わらせ、ベッドでゆっくりと寝たいものである。
なのに、まったくと言っていい程、目覚める気配が無い。
何らかの兆候くらいあってもいいはずなのに。

黒子と2人、昼休みの時と同じくカウンター内のパイプ椅子に腰かけながら、小さく溜め息を吐いた。

「そういえば黒子君、今日部活は?」
「、今更どうしたんですか?当番の時は遅れて行くと赤司君に伝えてます。…今日の相坂さん、なんだか少し…おかしいですね」
「え、あ、そうだっけ?あはは…まだ寝ぼけてんのかなー」

知らんがな、と心の中で雑に返答をしながらも、表面では乾いた笑いを洩らす。
本日二度目の訝しげな表情頂きました。黒子くん、目が怖いよ。

「授業中も心此処にあらず、って感じでしたし。昼休みも、廊下でも…初めて来た場所を見ているように、僕は思えました」
「え…いや、そんな」
「なにかあったなら、僕で良ければ聞きますよ?なんでも、話してください」

…っ痛い!黒子の優しさが痛い!私の胸をえぐってくる!
なんだこの夢私の願望現れまくりだろ。深層意識怖い。がくぶる。

何でも無いよっつっても納得してくれそうにないし、かと言って「いやだって夢で帝光中来るとか初めてだからさー!」なんて言った日には頭の病院行きを勧められそうだ。それだけは避けたい。
どうしようかなあ、と腕を組む。
ていうかいい加減起きようぜ私。夢の中ででも黒子の優しさに触れられたから私はもう満足です。早く起きてレポートの続きやらないと単位危ういんだよ!

「やっぱり、僕なんかじゃ…頼りない、です、よね」

黒子がしょんぼり、顔を俯かせる。
いやあああ違うんだよ黒子くんそういうわけじゃなくてしょんぼりする黒子も可愛いなあとか思ってなんてないからいやほんとまじで可愛い、じゃなくって!

とにかく「違っ、黒子君が頼りないとかそういうんじゃなくて、なんて説明すればいいのかちょっとわからなかったから」と口早に述べる。
そうですか?と顔をあげる黒子に安堵するも束の間、不意に、頭をがしりと、何かに掴まれた。

…なにか、じゃない。誰か、だ。

「やあ、相坂。僕のテツヤを悲しませるなんて、頭が高いぞ。どういう了見なのかな?」
「あ、っかし…さま…だと…」

壊れかけのおもちゃのような動作で目線を上げれば、カウンターに頬杖をつき、もう片方の手で私の頭をがっしりと掴む、赤司の姿。
思わず様付けにしてしまう程の威圧感。そして生ズガタカ。
あれだけ原作で読んだ時には「どこの殿様だよ!」と爆笑したにも関わらず、笑わなかった私を誰か褒めて欲しい。
そしてこの人もしかしてキセキ厨か。キセキ厨なのか。それとも黒子厨か。
原作ではどうなのか知らないけれど某イラストSNSで大人気なキセキ厨赤司なのか。
なにそれ怖い。私の深層心理仕事しすぎわろた。

「どういう了見なのかと、聞いているんだ」
「あいたたたたちょっと待ってください頭割れちゃうフォンダンショコラになっちゃう」
「あ、赤司君、相坂さんは悪くありませんから、手を離してあげてください」

慌てた様子の黒子の言葉で、やっと赤司ズハンドの呪縛から解き放たれる。でもこの人離す直前に一番強く握りしめたよ。お前の握力どうなってんの。
これが痛くないタイプの夢だったら良かったのに!

「ていうかバスケ部のキャプテンが部活サボってこんなとこで何してんですか」
「僕にそんな口を聞いて良いのは僕が認めた奴だけだと何度言えばわかるんだ?」
「えええちゃんと敬語じゃないですか」
「君の敬語は目上の者を敬うという気持ちが込められていないんだよ、相坂」

いやまあそりゃ赤司君、実際きみ私より5歳以上年下だからね!敬うもクソも無いよね!
しかしそんな言葉を口に出せるはずもなく、私は渋々「すんません」と謝罪の言葉を吐くのであった。


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