27 黒子のヤンデレ思考を取り除くには。 つばきへの異常な執着をなくすには。 私は、キセキと黒子がちゃんと向き合う事が、必要だと思う。 極論だけど、キセキが黒子をちゃんと必要としてくれさえすれば、黒子にとって私はいらなくなるんだ。 光が強ければ強いほど、影は濃くなる。 黒子曰く淡い光であるらしい私は、黒子を病ませる存在でしかない。彼を薄い影にすることしか出来ない。 だから、キセキと黒子をちゃんと向き合わせなきゃいけない。 その第一歩が、ここだ。 赤司と黒子。ちょっぴり歪んでしまった、2人。 この2人を向き合わせる。 きちんと、正面から。 空になったカップをテーブルに置く。 かつん、と乾いた音が鳴った。 「正直に言いなよ、赤司君。黒子君の話を聞いて、君はどう思った?」 うつむいていた赤司が、私を見る。 縋るような視線に思えた。 私ならこの場をどうにか出来るとでも?勘弁してください。私はこんな人間同士のいざこざなんて常にスルーして生きてきたんだ。無理です。 促すことしか、出来ないよ。 「大丈夫だから」 「…確かに、反論、出来ない」 赤司の言葉に、黒子は息をのんだ。 自分の考えを、必要されていないだろうという予想を、肯定されたんだ。そうもなるだろうな。 「大輝だけじゃない。僕も、真太郎も、飛び抜けた才能を持っている。涼太や敦はまだ開花していないが、時間の問題だろう。テツヤのパスがあれば戦略の幅は広がるが、いざという場面で使う必要は、もう無い」 「…ほら、言ったじゃないですか。相坂さん、僕は必要ないんですよ」 膝の上で両手を握りしめている黒子は、薄く笑っていた。 諦めたように、絶望したように。 それを眺めて私は眉尻を下げる。 黒子はそうやって、いつも、諦めていたんだろうか。 まるで自分を見ているようだ。 やんなっちゃう。 「だけど、」 一変、赤司は力強い声をあげた。 「テツヤは僕たちに必要だ。僕は、テツヤに傍にいて欲しい。テツヤと、大輝と、敦と、真太郎と、涼太と、6人で、桃井とつばきに見守ってもらいながら、ずっと一緒にいたいと思っている」 初めて、そう思える友達が、出来たから。 青春漫画を読んでいる気分である。赤司さんよく言ったよ。今の君輝いてるよ。 でも、黒子にはちょっとばかし足りないようだった。 黒子はそんな彼らとバスケがしたいんだ。そのバスケを必要ないと言われてしまったら、自分が必要とされていても、意味がない。 現に黒子は、何とも言えない表情をしていた。 嬉しいのに悲しい。そんな感じ。 「…口挟んで悪いけど、黒子君さ」 「なんで、すか」 「パスだけに拘らなくても、君はドリブルもシュートも出来るんだよ」 「…あんなの、素人に毛が生えた程度ですよ」 「ほらそうやって、すぐに諦める」 ため息混じりの言葉に、黒子は顔を上げた。 「必要とされなくなったから他の人を求める。シュートが出来ないからパスに専念する。そうやって自分の可能性を切り捨ててんのは他でもない、黒子自身だよ」 「希望を持ったって、駄目な物は、だめなんですよ。出来ないことだってあります」 「ー…っそんなこと、ない」 もう一度ため息をついて、口を開こうとした私を遮ったのは赤司の一喝だった。 大きな声ではなかったけれど、はっきりとしたそれは静かに響いて。 私と黒子がほぼ同時に、赤司を見やる。 赤司は強く、唇を噛んでいた。 「テツヤの才能を生かすために、独特のフォームでパスをさせた。それを応用すれば、シュートだって、テツヤは入れられる。それはきっと、テツヤにとって大きな武器となる」 思わず目を丸くしてしまった。 お、おおお…?もしかして私、原作変えちゃった?え?大丈夫かこれ? あれだよね、このセリフ聞いて思い出したけど、WCら辺で青峰と黒子がシュート練する話で青峰がなんか言ってたよね? パスの所為でシュートのフォームがどうのこうのって…それに赤司は気付かなかったのか?って…。 …うん、まあ、いいか。どうせここ、私がいる時点でパラレルワールドだろうし。大筋に変化が無ければ…うん大丈夫大丈夫。なんとかなる。 1人でおろおろ悩んでいる私になんて気がつかず、黒子と赤司はまっすぐに見つめ合っていた。 お邪魔ですかね私。 「、そんなの」 「何度も言うが、僕にはテツヤが必要だ。それはもちろん、他の4人だって同じ事。もし、あいつらがテツヤをいらないなんて言うことがあったら、僕が制裁を加えてやる。だから、自分が必要じゃないなんて、言わないでくれ。思わないで、くれないか」 一瞬の間の後、赤司が立ち上がる。 そしてそのまま、黒子に向けて90度に腰を折った。 「テツヤにそんなことを思わせてしまって、気付かなくて、悪かった」 「赤司、君…」 あ、赤司の最敬礼やで…! うわあこれすごいレアだろうなあ写メりたい…でもそんな空気じゃない…っ!つらい! ついつい輝かせてしまった顔を落ち着かせるように二、三度咳払いをして、黒子へと目線を向けた。 「言ったでしょ?黒子君は、キセキの5人にとって必要な人だよって。必要とされなくなったのなら、食らいつけばいいんだよ。必要とされる自分になればいい。黒子には、それが出来るんだから」 最敬礼をしたままの赤司と、へらりと笑う私を何度か見やって、やっと黒子は疲れたように、ため息混じりの笑いを漏らした。 憑き物のとれたような笑顔。 よっしゃ、と心の中で小さくガッツポーズ。 「僕は、君たちといて、いいんですか」 「当然だろう、テツヤ。むしろいてくれないと僕が困る」 「安定のキセキ厨ですね赤司さんは」 ありがとうございます、と。 小さな声でそっと呟いて、涙は流れてないけれど、黒子は泣いているように思えた。 これで、黒子ももう大丈夫。 ← → back |