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黒子のヤンデレ思考を取り除くには。
つばきへの異常な執着をなくすには。

私は、キセキと黒子がちゃんと向き合う事が、必要だと思う。

極論だけど、キセキが黒子をちゃんと必要としてくれさえすれば、黒子にとって私はいらなくなるんだ。
光が強ければ強いほど、影は濃くなる。
黒子曰く淡い光であるらしい私は、黒子を病ませる存在でしかない。彼を薄い影にすることしか出来ない。
だから、キセキと黒子をちゃんと向き合わせなきゃいけない。

その第一歩が、ここだ。
赤司と黒子。ちょっぴり歪んでしまった、2人。
この2人を向き合わせる。
きちんと、正面から。

空になったカップをテーブルに置く。
かつん、と乾いた音が鳴った。

「正直に言いなよ、赤司君。黒子君の話を聞いて、君はどう思った?」

うつむいていた赤司が、私を見る。
縋るような視線に思えた。
私ならこの場をどうにか出来るとでも?勘弁してください。私はこんな人間同士のいざこざなんて常にスルーして生きてきたんだ。無理です。

促すことしか、出来ないよ。

「大丈夫だから」
「…確かに、反論、出来ない」

赤司の言葉に、黒子は息をのんだ。
自分の考えを、必要されていないだろうという予想を、肯定されたんだ。そうもなるだろうな。

「大輝だけじゃない。僕も、真太郎も、飛び抜けた才能を持っている。涼太や敦はまだ開花していないが、時間の問題だろう。テツヤのパスがあれば戦略の幅は広がるが、いざという場面で使う必要は、もう無い」
「…ほら、言ったじゃないですか。相坂さん、僕は必要ないんですよ」

膝の上で両手を握りしめている黒子は、薄く笑っていた。
諦めたように、絶望したように。
それを眺めて私は眉尻を下げる。
黒子はそうやって、いつも、諦めていたんだろうか。

まるで自分を見ているようだ。
やんなっちゃう。

「だけど、」

一変、赤司は力強い声をあげた。

「テツヤは僕たちに必要だ。僕は、テツヤに傍にいて欲しい。テツヤと、大輝と、敦と、真太郎と、涼太と、6人で、桃井とつばきに見守ってもらいながら、ずっと一緒にいたいと思っている」

初めて、そう思える友達が、出来たから。

青春漫画を読んでいる気分である。赤司さんよく言ったよ。今の君輝いてるよ。
でも、黒子にはちょっとばかし足りないようだった。
黒子はそんな彼らとバスケがしたいんだ。そのバスケを必要ないと言われてしまったら、自分が必要とされていても、意味がない。

現に黒子は、何とも言えない表情をしていた。
嬉しいのに悲しい。そんな感じ。

「…口挟んで悪いけど、黒子君さ」
「なんで、すか」
「パスだけに拘らなくても、君はドリブルもシュートも出来るんだよ」
「…あんなの、素人に毛が生えた程度ですよ」
「ほらそうやって、すぐに諦める」

ため息混じりの言葉に、黒子は顔を上げた。

「必要とされなくなったから他の人を求める。シュートが出来ないからパスに専念する。そうやって自分の可能性を切り捨ててんのは他でもない、黒子自身だよ」
「希望を持ったって、駄目な物は、だめなんですよ。出来ないことだってあります」
「ー…っそんなこと、ない」

もう一度ため息をついて、口を開こうとした私を遮ったのは赤司の一喝だった。
大きな声ではなかったけれど、はっきりとしたそれは静かに響いて。
私と黒子がほぼ同時に、赤司を見やる。
赤司は強く、唇を噛んでいた。

「テツヤの才能を生かすために、独特のフォームでパスをさせた。それを応用すれば、シュートだって、テツヤは入れられる。それはきっと、テツヤにとって大きな武器となる」

思わず目を丸くしてしまった。

お、おおお…?もしかして私、原作変えちゃった?え?大丈夫かこれ?
あれだよね、このセリフ聞いて思い出したけど、WCら辺で青峰と黒子がシュート練する話で青峰がなんか言ってたよね?
パスの所為でシュートのフォームがどうのこうのって…それに赤司は気付かなかったのか?って…。
…うん、まあ、いいか。どうせここ、私がいる時点でパラレルワールドだろうし。大筋に変化が無ければ…うん大丈夫大丈夫。なんとかなる。

1人でおろおろ悩んでいる私になんて気がつかず、黒子と赤司はまっすぐに見つめ合っていた。
お邪魔ですかね私。

「、そんなの」
「何度も言うが、僕にはテツヤが必要だ。それはもちろん、他の4人だって同じ事。もし、あいつらがテツヤをいらないなんて言うことがあったら、僕が制裁を加えてやる。だから、自分が必要じゃないなんて、言わないでくれ。思わないで、くれないか」

一瞬の間の後、赤司が立ち上がる。
そしてそのまま、黒子に向けて90度に腰を折った。

「テツヤにそんなことを思わせてしまって、気付かなくて、悪かった」
「赤司、君…」

あ、赤司の最敬礼やで…!
うわあこれすごいレアだろうなあ写メりたい…でもそんな空気じゃない…っ!つらい!

ついつい輝かせてしまった顔を落ち着かせるように二、三度咳払いをして、黒子へと目線を向けた。

「言ったでしょ?黒子君は、キセキの5人にとって必要な人だよって。必要とされなくなったのなら、食らいつけばいいんだよ。必要とされる自分になればいい。黒子には、それが出来るんだから」

最敬礼をしたままの赤司と、へらりと笑う私を何度か見やって、やっと黒子は疲れたように、ため息混じりの笑いを漏らした。
憑き物のとれたような笑顔。
よっしゃ、と心の中で小さくガッツポーズ。

「僕は、君たちといて、いいんですか」
「当然だろう、テツヤ。むしろいてくれないと僕が困る」
「安定のキセキ厨ですね赤司さんは」

ありがとうございます、と。
小さな声でそっと呟いて、涙は流れてないけれど、黒子は泣いているように思えた。


これで、黒子ももう大丈夫。



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