26



二人がけのソファーに黒子を座らせ、赤司がその斜め前の一人用ソファーに座るのを見届けてから、キッチンへと向かう。
3人分の紅茶をいれ、私は机を挟んだ黒子の正面にある座布団へと腰を下ろした。
あ、この位置はしくじった気がする。2人に見下ろされているみたいで落ち着かない。こわい。
…まあ座ってしまった以上、今更位置を変えるのもおかしいし、諦めよう…。

「…美味しいですね」
「普通のティーバッグのだけどね、ありがと」

温かいミルクティーを飲んで少し落ち着いたのか、黒子の雰囲気が少し優しくなったような気がする。

対して、赤司はどうにも落ち着かないようだった。そわそわというか、おどおどというか。いつもの威厳はどこ行った。
まあ今朝、黒子にどんな顔して会えばいいのかわからないとか言ってたんだし、仕方ないか。
ごめんね赤司、他に最適な場所が無かったんだよ。
それに、赤司も無関係じゃないしね?

「さて、一服したとこでお話の続きを始めましょうか」

カップの中の紅茶を半分くらい飲み終えたとこで、テーブルに戻す。
私の言葉に赤司と黒子も反応して、カップを置いた。


私としては、この世界から早く帰りたくてたまらないんだ。
黒バスのキャラに会えたのは嬉しかったし、楽しかった。でも、それだけ。
結局、これは私の人生じゃない。ここは、私の生きる世界じゃない。
私は私の友達や家族のいる元の世界で、レポートや単位に追われながら、生きなきゃいけない。そしてこの世界のつばきは、この世界でちゃんと黒子や赤司と向き合って生きなきゃいけないんだ。
それをこの世界のつばきに伝えることは出来ないけど、今、赤司と黒子に伝えることは出来る。

こうなった以上、手を貸してあげたくなるし、ね。

「黒子君、赤司君も無関係じゃないから、話してしまうけど、いい?」
「…はい」
「じゃあ、話すね」

姿勢を正す。
息を吸って、吐いて、ゆっくりと2回まばたきをした後、私は口を再び開いた。

「黒子君は、キセキの5人に必要とされなくなった。だけど私は黒子君を必要としていた。そのこともあって黒子君は私に依存していたし、依存されたかった。私を独り占めしたくて、ずっと一緒にいたくて、守ってあげたかった」
「ええ、そうです。僕はあなたが好きだ。今までも、これからも、ずっと。僕だけが相坂さんを愛して、守るんです。相坂さんは僕だけを求めて僕だけに守られて、生きるんです」
「、…テツヤ」

小さな声で、赤司が黒子の名前を呟いた。
黒子は私から目をそらさない。まっすぐな意志で、私を見つめている。

勘弁してくださいなんて言える雰囲気ではなく、肩をすくめた。

「何で黒子は、キセキに必要とされなくなったと、思うの」
「…、君たちには、才能があります。僕には無い、天賦の才能」

そこで初めて黒子は、赤司を見た。
赤司を見る瞳は暗くて、寂しげで、見ているこっちがつらくなる。
でも、赤司にはその目が怒りに震えているように見えているんだろうか。赤司はわかりやすく、動揺していた。

黒子がそんなこと考えてるなんて、思いも寄らなかったんだろうな。
赤司が黒子の考えに気付かなかった事に、罪はない。そしてその考えを初めて感じた瞬間からキセキに打ち明けなかった黒子にも、罪はない。
2人ともまだ子供で、自分のことで精一杯なんだ。しかたない。

そう、全部、仕方ないんだ。
誰も悪くない、哀しいすれ違い。

「僕の才能を見出してくれたのは、赤司君でした。そして青峰君はずっと一緒にいてくれました。他の3人も。ですが、才能の開花した君たちは、僕のパスを必要としなくなった。1人でも点は入れられるからです。僕のパスなんて、必要ない。僕なんていらないんだと言われているようで、悔しかった」

哀しかった、眩しかった。
強すぎる光に当てられてこのまま、僕みたいな薄い影は消えてしまうんじゃないかと。空気に溶けてしまうんじゃないか、って。

真顔で黒子の言葉を聞く私に比べて、赤司はとても沈痛な面持ちで話を聞いていた。
赤司が何を考えているかなんて私にはわからない。それを想像しようとも思わない。

黒子はうつむいて、だけど相坂さんだけは僕を見てくれました、と続けた。

「相坂さんの淡くて優しい光が、僕には居心地が良かったんです。小さくて今にも消えてしまいそうな、儚い光でしたが、そこはとても、温かかった。その光の影でいられるなら、相坂さんの傍にいられるなら、何でもしよう。そう、思いました」

…しかし、まあ、なんだ、そのさ。
シリアスブレイクして悪いんだけど、黒子ってすごいポエマーだよね。
キセキの光だの影だのって言い回しが私のツボを的確についてくるのはまだ原作で耐性があるから耐えられるんだけど、私…っていうかつばきの事まで淡くて優しくて儚くて温かい光とか言われてしまうと、そりゃ真顔にもなるってもんですわーつらいわー。
絶対に笑っちゃいけないと思うとなおさらツボ浅くなるから困る。がんばれ私。

赤司も黒子も2人して俯いてんのも大概シュールなんだよなあ、なんだろこの光景。

そんな事を考えながら紅茶に口を付ける。
案の定、というか。やっぱり紅茶は冷めていた。



back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -