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青峰に「黒子くんと授業さぼってデートしてくるね!」と渾身のドヤ顔な顔文字と共にメールを送れば、俺も混ぜろよバカとのお返事をいただいた。
いやしかし君にはこの恋愛講座必要無いと思うのだよ。むしろ必要無い青峰でいてください。ヤンデレゲー大好きなお前のままでいていいよ、うん。
ていうか青峰おまえ授業サボりたいんじゃなくて黒子×私を見たいだけだろ。勘弁してください。

というわけでカバンの事は青峰に託し、赤司に連絡を入れ、黒子の手を引いて家へと向かう。
先生に見つからなかったのがすごい。もしかして私もミスディレ使えてんじゃないのか。

赤司からの「わかった、マンションに入る前にまた連絡をくれ」という返信を確認して携帯をポケットにしまい、私の一歩後ろを歩く黒子を見やる。
怖いぐらいに静かだ。
下を向いて、何を考えているのかわからない顔で、私に手を引かれるまま歩いている。

「これから、赤司君の家に行くんですか」
「私の家でもあるけどね」
「それで、どうするつもりなんですか」
「…どうされたい?」

ちょっとした意趣返しだ。
してやったり顔で後ろを向きながら笑えば、黒子は目を丸くしていた。あらかわいい。

「――…訂正します。やっぱり、あなたと相坂さんは、別人ですね」
「だからそう言ってるでしょって何度言えば」

赤司ん時にもこの会話した気がするぞ。

「それでも僕は、今のあなた…相坂さんの事も、好きなんです。相坂さんだって、僕を必要としてくれます」
「そうだね、確かに黒子は必要だよ」
「なら…っ!」

繋がれた手に力がこもる。

今、私は酷いことをした。
恋愛において一番してはいけないのは、人にもよるけど…私は「期待させること」だと思う。
気持ちに応えるつもりも無いのに優しくする。応えるつもりが無いから、優しくできる。
それは一番残酷な事だ。
私は、そう思う。
そして今、私はそれをした。

「でも私に、じゃない」
「っ…ど、して」
「この世界には、キセキの5人には、黒子が必要だよ。此処には、彼らには、黒子がいなきゃいけない。でも私は黒子がいなくたって生きて行けるし困ることなんてこれっぽっちも無い」

誰にだって、そんな人いないと思う。
扶養者は別だ。子供は親がいないと生きていけない。
だけど、心理的な面はひとまず置いておくとして。
友人や恋人、クラスメイト、教師、隣をすれ違っていった名前も知らない人。そんな人たちがいなくなったとしても、人は生きていける。友人がいなくなったら心臓が止まるわけじゃない。恋人がいなくなったら呼吸が出来なくなるわけじゃない。クラスメイトや教師がいなくなっても食べていけるし、すれ違った名前も知らない人がいなくなったって体は動く。
何十億人といる人間の中の一個体が消えたところで、大した影響は無い。本当に困る人なんて、いない。
私はそう考えている。
かといって精神面で考えると、友人がいなくなれば悲しいし恋人がいなくなればご飯も喉を通らないかもしれない。
それでもやっぱり、人は、生きていける。

でも、必要な人だって、勿論いる。
その人がいたから自分が変われた。その人がいたから知り得ない事を知ることが出来た。その人がいたから、楽しくて嬉しくて、笑いあえる。
そんな相手は必要だと思う。
そして、キセキにとってそれは黒子なのだろうし、黒子にとっては、キセキと火神だ。

でも私はもともと黒子に会うはずの無い人間だったわけで。

「彼らは、僕を必要としていません。そう、言ったじゃないですか」
「本当に?」
「本当ですよ。彼らは僕がいなくてもバスケが出来ます。勝ち続けられます。パスしか出来ない僕なんて、」
「…ふうん」
「…いっそ、バスケ、辞めようかと思っているんです。誰にも会わない遠くの高校に進学して、僕、本も好きですし、文系の部活に入るのも、いいかなって」

…おいおい恋愛相談どころか人生相談になってるぞ。いやそういう話題にしたの私かもしんないけど。

赤司のいるマンションが見えてきた。
携帯を取り出し、もうすぐ着くとメールを入れてから、黒子に向き直る。
黒子の私よりも白い手を両手で握りしめ、下を向いたままの黒子の顔を上げさせた。

「駄目だよ」
「、え?」
「バスケ辞めちゃ駄目だよ。黒子君、バスケ好きなんでしょ。好きなこと辞めたら絶対後悔する、現に、私は、後悔してる」
「相坂、さん…」
「…もし、本当に、キセキの5人と一緒にバスケするのが嫌になったのなら、部活は一時辞めればいい。でもバスケは辞めないで。黒子は、黒子の行きたい学校で、黒子の大好きなバスケが出来るんだよ、絶対。だからバスケは辞めちゃダメ」

私があまりにもそうやって真面目に言うもんだから、黒子は面食らったようで口をぱくぱくさせていた。
目を閉じて、うつむいて、唇を噛んで。そして。

「…、――」

何かを、言おうとした。

「そんなところで何をしているんだ」
「っ、あ、かし…君」

黒子から手を離し、頭を抱える。
赤司まじタイミング悪すぎていっそ笑えてくるわ。クソワロ。ふざけんなよお前一発でいいから殴らせてくれ。今黒子っちなんか言おうとしてたのによお!

「赤司まじ空気読んで」
「僕にそんな口を聞いていいと思っているのか?」
「昨日はぴーぴー泣いてた癖に」
「うるさい」

頭はたかれた。
ほらこれだよ!赤司はすぐ手を出す!意外と短気だよね君って!!

ため息をひとつ吐いて、またうつむいてしまった黒子の手をもう一度引く。

「ほら、行こ、黒子くん」
「…はい」

本番は、ここからだ。
何が間違ってて何が正しいかなんて、私にはわからない。もしかしたら赤司や黒子より、私のが間違ってるのかもしれない。


だけど。



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