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――最初に違和感を覚えたのは、青峰君と黄瀬君、赤司君と部活帰りに寄ったマジバで、あなたを見つけた時でした。
相坂さんは学校帰りに寄り道をするような人ではありません。
いつも、どこにも寄らずに、すぐに家へと帰っていました。だけどあの日は、違った。
そして青峰君や黄瀬君と会話する時も、まるで顔は知っているけれど会話をするのは初めてのように見えました。おかしいですよね、その前の日も、その日の朝だって普通に話をしていたのに。
最たるは赤司君への態度です。あなたは赤司君に対してとても好意的に見えました。恐れたり怒りを覚えたりしているようにも見えましたが、どちらにしろそれまでの相坂さんが赤司君に抱いていた感情とは異なります。
相坂さんは、赤司君を、嫌悪していましたから。

違和感が疑惑に変わり、確信へと至ったのは、僕があなたを部活終了後に引き留めた時です。
あの時、僕、あなたにキスしましたよね?あれ、実はファーストキスなんですよ。文字通り、初めてです。
それまでの相坂さんならきっと泣いていたでしょう。彼女は、とても脆い人でしたから。
驚いたんですよ?あなたは混乱してはいましたが、けれどその程度の反応でした。
すぐにキスした事なんて忘れたかのように青峰君と話をしていましたし、その後も、多少おろおろとはしていましたが僕と普通に会話をしていましたし。

理由はわかりません。
けれど、あなたはあの図書室でうたた寝をしていた時から、相坂さんと入れ替わっていたんじゃありませんか。それも、中身…精神だけ。
こんな事言うと小説の読み過ぎだと言われてしまいそうですが。
…あなたは相坂つばきという名前に対して違和感を持っていない。とすると、あなた自身もその名前なんでしょう。そして姿形もきっと、変わらない。
…ああでも年齢は、僕たちより年上のように思えますね、妙に落ち着きがありますから。こんな時だってあなたはきっと、まったく関係のないことを考えたりしていたんでしょう?

世の中にはパラレルワールドというものが存在するそうです。ご存じですか?
ですからきっと、あなたは僕や赤司君と出会ったことのない、パラレルワールドの相坂さんなんだろうと、僕は考えました。

相坂さんのように赤司君を嫌悪しておらず、そしてこの世界で起きた事を何も知らない、僕とまったく接点の無い人。
だけど相坂さん以上に、僕や赤司君への好意を抱いている。…そこはとても不思議ですが、まあいいでしょう。

僕にとっては、都合が良かったんですから。


あなたが僕たちより年上だと仮定して。
そうしたらきっと赤司君の想いを断ち切るのも容易だろうと思いました。彼は相坂さんに依存していた、でも、その想いの強さは大した物じゃありません。
子供のだだのような物ですよ。
そして実際、あなたは赤司君の想いを断ち切らせた。

僕はあなたを手に入れる。1人ぼっちになんてさせません。
この世界のことが分からずに苦労したでしょう?だから僕が守ってあげます。ずっと傍にいてあげます。
相坂さんじゃなくても、あなたが相坂さんな事に変わりはないんですから。

「…ふはっ、」

黒子の長〜い話をそこまで聞いて、思わず笑いが漏れた。
いやあ黒子っちほんっと質悪いわ。何度も言ってるけど。最近の子供こっわ。

ていうか赤司にも言える事だけどさあ、結局私はこの世界のつばきじゃないわけじゃん?言ってみれば双子みたいなもんですよ。
その片割れが振り向かないしめんどくさいからもう1人の方に鞍替えします、みたいなもんなんですよ、こいつらがしてんの。
ちゃんちゃらおかしいわ。そんなの愛情じゃない。

確かに私がつばきであることに変わりはないかもしれない。
それでもやっぱり、別人なんだ。

どうやらこの世界のつばきには悲しい過去があるようだし?親はいないし?ヤンデレ2人には愛されてるし?ぶっちゃけ赤司と一緒に住んでんのも赤司が病んでんなら軟禁みたいなもんだったと思うんだよね、この世界のつばきが本当に赤司を嫌っていたなら。
でもまあ話を聞く限り、この世界のつばきも、赤司と黒子…あと多分青峰とかにも、依存してるように思えるけどねえ。

ま、そんなのは私には関係ないことですが。

「黒子君、よーく聞いてね?君のその妄想みたいな長いお話。うん、だいたい全部合ってる。びびるくらいに」

いやほんとびびったんですよ。途中何度ツッコミ入れようとしたことか。
この子ほんとはエスパーかなんかじゃないの?

「でも最後だけはだめだめだわ。私もこの世界のつばきも変わらないって?変わるよ。きっとこの世界のつばきは黒子君にこんなことされたら怖くて泣いちゃうかもしれないしむしろ懐柔されちゃうかもしれない。だけどね、」

肘を机につき、半身を持ち上げて黒子を抱えるような体勢で机から降りる。
久々に地面に着いた足。うん、やっぱ人間は地に足つきて生きるべきだよ。ぶらぶらしてんのも楽しいけど。
黒子は細いとは言えやはり男で、重たかったが大した距離でもないし、少々腕が痛む程度ですんだ。10kgの米が入った袋を2つ同時に運んでいた私に死角はない!いやそれでも黒子の体重には及ばぬがな!

そのままやや乱暴に黒子を地面に押し倒して、両手は頭上にホールド、足も固めさせていただいた。
所詮女の力、抜け出そうと思えば出来るだろうけれど、黒子は何が起きたのか理解出来ないプラスぶつけた背中が痛いのか、唖然と私を見上げていて。

「世界が変われば環境も変わる。環境が変われば性格も変わる。性格が変われば経験も変わる。経験が変われば考え方も変わる。考え方が変われば、行動も変わる」

ぱしんと、あくまでも軽く、軽くだぞ、ほんとに軽く黒子のほっぺをはたいた。
視線が絡む。やだ黒子の驚いてる顔くそかわいい。これで相手が私じゃなかったら最高だった。

「私とこの世界のつばきは別人だよ。黒子を押し倒す事も出来るし、やろうと思えばシモな展開に持ってく事もさっきの状態に戻ってから青峰や黄瀬に電話をかけることも君を殴る事だって出来る。まあ、やらないけどね?黒子の事嫌いな訳じゃないから」
「…さすが、大人の余裕ですね」

にぃっこり、その言葉に笑みで応えて、黒子の手を離した。
黒子はまた唖然として、自由になった自分の手をどうすればいいのかとさまよわせている。

「立って、黒子君。おいで。お姉さんが君に、恋愛のなんたるかを教えてあげようじゃありませんか」

まあそんなの教えられるほど恋愛経験無いんだけどな!!
泣いてない、泣いてないぞ私は。

それでもその数少ない経験を使って、妄想や理想も織り交ぜて、この子には教えないといけない。
だって、黒子がずっとこのままじゃ、悲しいじゃないか。



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