22 ゆっくり、黒子が近づいてくる。 「今日、赤司君は、お休みなんですね」 「あー…うん、ちょっとね」 それに対して、私は一歩後退る。 ほぼ反射的な行動だった。意味はないとわかってはいるんだけども!そしてそうしたら余計追いつめられることもわかってるんだけど!体が勝手に! 「昨日、相坂さんが忘れて帰ってしまったカバン、机にかけておきましたよ」 「あ、うん、ありがとう」 また、ゆっくり、一歩一歩静かに、黒子は歩み寄ってくる。 怖い。涙出そう。 ていうかこの部屋まじでほこりっぽい。涙より先にくしゃみ出そうだわ。 「赤司君とは、あの後、どうなりました?」 がこっ、と、後退していたせいで見えなかった、何かに躓いて、体が傾く。 あっやべえ死ぬ、と思った私の手を黒子が引いて、転けずにはすんだが、抱き留められた。 にっこりと笑う黒子の顔が目の前にある。背中を冷や汗が伝った。 やばい、この子、多分赤司より質悪い。 昨日も思ったけど、私を手に入れたいと心底思っている赤司に対して、黒子は私を好いているらしいけどそれ以上に、状況を楽しんでいる節がある。 それこそ、私を好きだと言うことですら、ただ自分が楽しむためだけの、嘘なんじゃないかと思えるくらい。 最初の頃の天使な黒子君まじどこ行ったん…。 どうしてこうなったん…。 「、別に…落ち着かせて、仲直りしたよ?…喧嘩した訳ではないけど」 「そうですか、残念です」 「え」 …え? ざ、残念です、つった?あの、あれ?この子残念ですっつったよ!?どういうことなのワケガワカラナイヨ! 私を抱きしめたまま、黒子は近くにあった机の上を適当に片付けていく。 そしてハンカチを敷いて、私を抱え上げるとそこに座らせた。 …おいおい私そこまで体重軽く無いぞ…黒子っち頑張ったな…。 思わず「意外と力持ちだな…」と口に出してしまった私に、黒子は一瞬きょとんとした後「男ですから」と笑った。 このほのぼのタイムを持続させろください。まじで。 「あれで、赤司君が相坂さんを傷つけてくれたら、僕が慰めてあげられたんですが、ね」 机に座った分、黒子より目線が高くなる。 私の腰に腕を絡めてこっちを見上げながら笑う黒子は完全に闇堕ちしていた。真っ黒子様やで…。 そしてほのぼのタイムなんて無かったんや。号泣。 「黒子君は、…なにがしたいの。赤司のことも、大事じゃ、なかったの?」 「ええ、大切ですよ。尊敬するキャプテンで、大事なチームメイトで、僕を見つけて導いてくれた光です、赤司君は」 「なら、何で…」 「でも彼らに僕は必要ありません」 ひどく、冷めた声だった。 「赤司君にも、黄瀬君にも、紫原君にも、緑間君にも、…青峰君にも、僕なんて必要じゃないんです。影には光が必要だけれど、光に影は必要ない。光がある場所に自然と影が出来るだけで、それは、光が影を必要とした結果じゃないんですよ」 「くろ、」 「だけど相坂さんは、相坂さんだけは僕を必要としてくれます。必要としています。そうでしょう?そうですよね。だって赤司君といるのが、話すのが、近づくのが嫌だからと僕に助けを求めたのは相坂さんなんですから。相坂さんを救えるのは僕だけです。だから、相坂さん、ねえ、」 僕だけとずっと一緒にいてください。 まくしたてるように言っていた、黒子の最後の一言だけは、とても静かだった。 祈るような、縋るようなその声に、動揺する。 えー…っと、これは、なんというか、…病んでるなあ…! キセキに信頼されなくなった事は黒子にとってやっぱり相当のダメージになった、てこと、なんだろう。 そこに赤司と私と黒子の3人でできあがった三角関係的なアレも混ざって、更にややこしくなった、と。 こりゃ黒子も大概依存してるわ。…いや、依存されたい、のか。 私にはどうしようもねーぞこれ…。 ヤンデレ対処法なんて知らないよちくしょう。 「僕がずっと、永遠に相坂さんを守ってあげます。今までも、これからも、僕だけが、あなたを守る」 セリフだけならちょっと良いセリフにも聞こえるのがつらい。 ストーカーぽい事っていうかストーカーしてたのも私を見守ってくれてたんですかね!わあい!帰りたい。 ところでこれ監禁フラグ立ってません?私大丈夫? いやでも赤司ならまだしもたかだか普通の中学生な黒子に監禁出来るようなスペックは無いか…。 …無い、よね? 「だから、相坂さん、僕を受け入れてください」 「黒子、くん…」 いつの間にかまくり上げられていた制服の隙間から、黒子が私の腰辺りにキスを落とす。 そしてとられた掌にもキスされて、そういやキスって場所によっていろいろ意味あるんだよなあと記憶をたぐり寄せていたら、さっきまでとは一変して黒子はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。 「掌への口づけは懇願、腰への口づけは束縛を意味するそうです」 「うぇい」 こいつぁひでえ。 束縛させてくださいてへぺろ!みたいな?やだ黒子っちまじ直球。 「もう、つばきさんを赤司君には、会わせません」 どうやって?とか何するおつもりですかね?とか、まあいろいろ言いたいことはあるんだ、が。 この子どさまぎで名前呼びしたよ。 私はうっかり目頭が熱くなるのを感じた。 ← → back |