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「おはよう」

ドアを開け、リビングに入ってきた赤司に声をかける。
キッチンで朝ご飯の準備をしていた私を見て、赤司は眉尻を下げて微笑んだ。憑き物がとれたような笑みである。かわいい。

「おはよう、つばき」
「目、真っ赤だね。こすっちゃった?」
「ああ…だから今日は、休むよ。こんな顔、見せられないし、」

テツヤにどんな顔をして会えばいいのかわからない、と。

うんまあそれは私もですわ、っていう言葉を飲み込んで、そっか、と返した。

チン、とタイミング良く鳴ったトースターからチーズの乗ったトーストを取り出し、ボイルウインナーとサラダと共に皿に盛りつける。
既に座っていた赤司の前にそれと、コップについだ牛乳を置いて、私もソファーに腰を下ろした。

「…ごめんなさい」

ミニトマトを口に突っ込みながらの謝罪。
赤司は小さな動揺を見せて、そして、ちょっぴり困ったように笑った。

「何で、つばきが謝るんだ」
「いや…気持ちに応えられなかったから?すかね?」
「…好意は必ず返ってくる物ではないと、僕にそう言ったのはお前だろう」
「でも私は、好意が返ってこない悲しさも、知ってるから」

自分にはどうすることも出来ない、他人の感情。
それを無理矢理、得ることだってやろうと思えば出来るだろう。それをするのがヤンデレなんじゃないすかね、と私は思う。
でもほとんどの人が、そんなこと出来ずに、ただ、諦めるしかない。

悲しいし、寂しいし、やるせない。
伝える方も、伝えられた方も。

「つばき、」

赤司の手が、私の頬に触れた。
ひんやりとした手、だと思う。冷え性なのかな、とか関係ないことを考えつつ、私は赤司に顔を向けた。

「僕は、自分がまだまだ子供だったんだと、理解した。つばきが元は大学生だったと、うたた寝から起きたら中学生になっていたと言った時、僕はつばきが大学生だったのが夢なんじゃないかと言ったけれど」

一拍、あけて。

「きっと、あなたは本当に、僕と年の離れた、大人だったんだろうね」

そう言いながら、赤司があまりにも綺麗な顔をするもんだから。

「ぶふっ」
「おい」

思わず吹き出してしまった。

いや、私は悪くない。シリアスブレイカーとかそういうわけじゃない。
ブフォオって吹きそうだったのをぶふっだけで済ませた努力をまず認めていただきたい所存。

顔を真っ赤にしてむせる私を呆れたような目で見下ろす赤司様まじ赤司様。歪みねーわ。
損したとか言ってるけど何なんです?私年上だぞ敬えよちくしょう。

「確かに、本当…つばきとはまったくの別人だ」
「だからそうだっつってんじゃないですか…」

くすくすと赤司は肩を震わす。
解せぬって思いながら少し冷めてしまったトーストをかじって、ちらと横目でもう一度、赤司を見やった。

「…なんだ?」

綺麗に笑うこの子は、今までいろんな事を考えて、我慢して、きっと私には想像もつかないような努力をしてきたんだろう。
素直にすごいと思う。私みたいな凡人には真似出来ない。
だからこそ、ちょっとだけ、人に向ける愛情をどうすればいいのか分からなくなっていた。
どうやってその相手から、愛情を得ればいいのか、わからなかった。
まあそんなの、分かる人なんて少ないと思うけど。

でも。

「いや、赤司さんはすごいなあと思っただけです」
「、…僕は、つばきの方がすごい人だと思うよ」

もう、赤司は大丈夫。



問題は黒子っちイェアの方ですねわかります。
あーあー…学校行きたくない。
私も赤司と一緒にさぼりたい。


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