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赤司はそのまま私の手を引き、図書室を出た。
無言だ。無言まじこわい。あと手ぇ痛い。
そのまま下駄箱へ早足で向かうとこを見ると、もしかして帰るつもりなのだろうか。
困った、携帯はポッケに入っているとはいえカバンは図書室に放置したままだ。黒子が持って帰ってくれるかなあ。
…それもそれで不安だったわ。

やっぱり、赤司は家へと向かっていたようで。
無言で校舎を出て、無言で校門をくぐって、無言で歩き続けて、無言でマンションのエントランスを開けると無言でエレベーターに乗り無言で部屋の鍵を開けて中に入り無言で靴を脱ぎ捨て無言で赤司の自室へと到着した。
無言無言いいすぎだと思うけど本当に無言だったんだよ。無言っていうかもう無音?息切れの音すらしねえ。こええ。
私めっちゃ早歩き疲れたんですけど。競歩って大変なんだなと思いました。

半ば現実逃避していた私を、赤司はベッドに放る。
ふわふわの高級そうなベッドとは言え、痛いもんは痛い。あとびっくりした。

そのまま馬乗りになられ、そこでやっと「あ、やべえ」と私は気付いた。

赤司の目がやばい、ヤンデレモード全開。
プッツンしちゃってますよこの人。

「つばきは、」

そこでやっと口を開いた赤司に、制服のリボンを乱暴に取り払われ、服に手がかけられる。
両手は頭上で一纏めに拘束され、やだこれまじでやばいエロ同人みたいにやられちゃう、なんて冷や汗がたれた。
制服のボタンも雑にはずされ、2つ目のボタンが取れてしまったのが見えた。あーあ私ボタンつけるの苦手なのに、と考える。

「僕の物だ、から、あんな、おかしい、有り得ない」

うわごとのように呟く赤司さんは、どうやら今自分が何をしているのか理解して無いらしい。
きっと衝動的に、私が自分の物なのだと、自分に納得させようとしている。
そこでシモな展開に直結するのが中学生らしいというか、なんというか。暴力じゃないだけマシだと考えるべきだろうか。

というかこの子、本当に混乱しているんだ。
まるで、自分のおもちゃをとられてしまってどうしたらいいか分からず癇癪を起こす、子供みたい。

「つばき、つばき…っ」
「赤司」
「、っ…」

自分でも驚くほど、赤司の名を呼んだのは静かな声だった。

カーデとシャツの前を開けられ、下着でしか隠せていない私の胸へと伸びた赤司の手が、とまる。

「今、ここで赤司が私を抱いても、私は赤司の物にはならないよ」

なるべく優しく、諭すように声をかける。
手、離して?と微笑めば、やっと目の合った赤司はゆるゆると私の両手の拘束を解いた。
あいた手で赤司の頬を撫で、言葉を続ける。

「私は、黒子の物でも赤司の物でも無い。これからはわからないけど、少なくとも今は違う。私は赤司も黒子も同じくらい大切に思っているけれど、今、赤司が私を無理矢理犯して、体だけ繋がったとしたら」

赤司の瞳は今にも溢れてしまいそうなくらい、濡れている。
誰よりも大人に見えて、キセキの中では誰よりも子供なんじゃないだろうかと、思った。
この子は愛情に飢えている、気がする。
よくわからないけど。

「赤司は、私の中で、いらないものになっちゃうよ」

酷い言葉だったろうかと、考えはした。
事実、赤司にとっては酷い言葉だったんだと思う。溢れてしまった涙は私の頬を濡らして、止まる気配も無い。
黙り込んだまま私を見下ろして、はらはらと涙をこぼす赤司は、小さな子供みたいだ。本当に。

「つばき、は、僕が、嫌いか」
「好きだよ。でも、私の好きと、赤司君の好きは、違う」
「なんで、僕は、つばきがこんなにも、好きなのに」
「そうだね、それは嬉しい。…本当だよ。でもね、好意は必ず、返ってくるものじゃないの」
「じゃあ、僕は、どうしたら」

どうしたら、つばきに好きになってもらえるんだ。

静かに泣く赤司は絵画のようでもあった。
でも、ぐすぐすと喉を鳴らして、鼻をすすって、ただの中学生のように泣く赤司は、私の目の前で涙を、流す赤司は。

やっぱりただの子供だ。
人の愛し方も、愛され方もまだわからない、普通の中学生。

「これが絶対ってわけでは無いけれど、愛しいと思う気持ちは、相手の為に伝えてあげなさい。自分の為じゃなくて、今、相手がこう言われたら嬉しいだろうな、こうしてあげたら喜ぶだろうな、って時に。自分本位な愛情は、独占欲でしか無いんだよ」

ぎゅうと赤司を抱きしめてやれば、重力に従って彼は私の上に体を落とした。
肺やお腹への衝撃はなかなかにキツかったがなんとか声には出さず、赤司の頭をぽんぽんと撫でる。

「それでも赤司はきっと、この世界のつばきの事を考えて、一緒に住んだり、好意を抱いてたり、したんだろうね。嫌われてるんだろうと思っても、彼女の為に、行動していた。遠慮もしていた。まだ中学生なのに、赤司は偉いよ。でもね、そんな頑張らなくていいんだよ、君もまだ子供なんだから」


泣き続ける赤司は、私の言葉に返事をすることは無かった。


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