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そういえば、今更だが赤司さんは私と同居していることを学校では隠しているらしい。

私との関係を、家が近い幼なじみだと日頃は口にしている。
家が近い幼なじみとかなにその少女漫画。と私は思うのだが、周りはまあそれを信じているようだ。
赤司が無意味に嘘をつくとは思わないだろうしねえ。
私としては別にバレたとこでどうとも思わないのだけど、赤司が隠すのならそれなりの理由があるんだろう。
誰かに訊かれたら、私も家が近いのだと返している。

「相坂さん、このアンケートまとめてもらってもいいですか?」
「あいあいさー」

ぼんやりと思考していたのを遮る柔らかい声に、笑って応える。
図書委員にもいろいろ仕事があって、基本的には図書室のカウンターで行う本の貸し借り作業。他に、図書室内に掲示する新聞やら全校生徒相手に行うアンケートやらだ。
めんどいけど、結構楽しい。
こういうの中学高校時代くらいしかしないもんね…いや大学もしてんのかもしんないけど私そういう系のサークルには入ってなかったからさあ。懐かしい。

今回のアンケートは好きな本についてだ。
タイトルとか、ジャンルとか。
性別や学年ごとにまとめて傾向を見てみたりね。

しかしこの学校ミステリーやサスペンス好きな生徒多いな。なんか怖いわ。

「…そいえば、黒子君はどんな本が好き?」
「そうですね…結構なんでも読みますが、強いて言えば純文学でしょうか」
「ワオ…まさに文学少年」

純文学とか私、国語の教科書でしか読んだことねーよ。黒子まじすごい。

どれがおすすめだとかどれが面白いなのだとか、黒子なりにわかりやすくやんわりと教えてくれたけれど、私は「ああその人名は聞いたことあるわ…その人別の作品も書いてたんだ…」といった感じであって、まあその、なんだ、ごめん黒子。私ばかで。
おかしいなー元は大学生なんだけどなー。
まあジャンル違うんだろうね仕方ない…うん、仕方ない。

「すみません、僕ばかり話してしまって。…ちなみに、相坂さんはどんな本を?」
「んー…やっぱ恋愛物とか?あとエッセイ系かな。ファンタジーも好き」
「恋愛物でしたら、先週入ったこの本がおすすめですよ」
「え、すげえ…黒子君まさかこの図書室の本、全部読破してたりしないよね?」

はい、と渡された本にびっくりしつつ問いかける。
黒子はきょとんとした後に微笑んで、さすがに地図とかの資料は読んでいませんよ、と答えた。

あー、うん。
てことはそれ以外は読んでんのね…オールラウンダーなんだな…。

とりあえずおすすめされた本は未読だったので受け取り、アンケートの集計作業に戻る。
お、これ青峰の奴かな、字体がそれっぽい。ていうか書いてる内容が「エロ本」な辺りでもう完全に青峰だ。お前中学生だろ自重しろ。

「恋愛と言えば、相坂さん」
「え、はい」

隣で壁新聞の作業をしている黒子が、顔を上げずに私の名前を呼ぶ。
恋愛と言えば、って前置きがすっげー怖いんですけど。

「僕が相坂さんのことを好きだと言うのは、以前お話しましたよね?」
「…あ、うん」
「…相坂さんって困ると、その返答になるの癖なんですか?」

くすくすと笑われた。なにその笑い方えろい。

でも話の内容がちょっとあれでなんと言いますか正直今すぐ帰りたい。
ロクな話になる気がしないよー黒子くんが作業続けながらこっち見ずに話してんのが私の恐怖をあおってくるよー。

「そう緊張しないでください、相坂さんの答えを急かすつもりはありませんから。それに、相坂さんは何があっても僕の物ですし」

えええすげえこと言ったよこの子こっわ!

「ただ、まあ、仕方ないとは思いますけど、やっぱり相坂さんの中に赤司君がいるというのが、僕にとっては少しばかり、アレでして」
「…歯切れの悪い言い方ですね…」
「そうですね、僕は赤司君が嫌いなわけではありませんから。どちらかというと好意的な印象を持っています。僕らのことを大切にしてくれるし、キャプテンとしても尊敬しています」

いきなりホモられても困るよ…今「あ、うん」って言うのすら忘れたわ。
まあ要約すると、「相坂さんのこと好きで自分の物にしたいのに赤司君まじ邪魔だわーでも赤司君も(友人として)好きだからはっきり邪魔とか言えないわーまじ困るわー」的な感じでしょうか。私にはわかりません。

帰って牛乳たっぷりのカフェオレ飲みたい。

「でも、それとこれとは話が別ですし…ね?」

くすり、小さな笑みと共に黒子の手が私に触れた。
黒子が顔を上げる。そこにはとても、妖しい笑みが貼り付けられていて。

うわあ…こええ…。
自分の血の気が失せたのを感じた。

私の手を握り、黒子の顔はどんどん、私に近づいてくる。あっやべえこれキスされるフラグ立ってる?そんなフラグぶち折りたいんだけどどうしたらいいかな?
ここでいきなり今私の手に握られているシャーペンを黒子のほっぺにかするよう攻撃すればいいのかな?…いやだめだそんなことしたらつばきはマジキチ的なコメントをいただいてしまう。私は本誌初登場時の赤司のようになりたくない。
ていうか黒子の顔に傷つけるとか無理だわ。真顔。

「僕、知ってるんですよ」

鼻と鼻がくっつきそうな距離で、黒子が呟く。
まっすぐ目線は合ったまま、逸らすことも出来ず、固まる私。

知ってるって、なにを。

「相坂さんと赤司君」

ばたばたと廊下を走る音がする。
この時間帯の校舎にはもう生徒はいないはずなのに。いるのはグラウンドや体育館で部活中の運動部くらいだ。
先生だろうか。でも先生が、廊下走ったりする?

「何で、あなた達は」

その足音は図書室の前で止まったようだった。
しばらく外は、無音になる。

「同じお部屋に、住んでいるんです?」

黒子がにんまりと唇を三日月型に歪めたと同時に、大きな音を立てて図書室の扉が開いた。ドア壊れるぞ、と一瞬考える。
けれど、自分以外の事を考えるなんて許さないと、そう言いたげな黒子の目線に意識を引っ張られ、その考えはすぐに消えて。

小さなリップノイズが鳴った。
お互い目を合わせたままのキス。
黒子の無機質な瞳は、今は愉しそうに揺れていた。

「――…っテツヤ!!」

ばっ、と、不意に腕を力強く引っ張られる。
黒子との距離が大きく開いて、私の背中は誰かに、ぶつかって。
…それが誰かなんて、わかってはいるのだけど。

「部活はどうしたんですか?赤司君」
「…テツヤ、何で、こんな」

正面で、にこにことそれはそれは愉しそうに笑っている黒子。
背面で、顔を見ずともわかるくらいに動揺している、赤司。
そしてそんな2人に挟まれながら、まじでカフェオレ飲みたいと脳内ゲンドウポーズな私。

神様、癒されたいんで甘めのホットでお願いします。


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