13 翌日、朝練を終え教室に入ってきた、赤司青峰黄瀬黒子の4人。 目が合った黒子ににこりと綺麗な、けれど悪戯っ子のような笑みを向けられた。一本だけ立てられた人差し指はしぃとでも言うように唇に添えられている。 なにそのポーズえろい。待受にしたい。 「…つばき、もしかしてまた何か、テツヤに手を出したんじゃないだろうな」 「いたたたた真実を知る前に頭掴むのやめてください」 そんな私と黒子を見て、何度目かわからない赤司からのお仕置き。そろそろ私の頭は赤司の手の形にへこむんじゃないだろうかと思う。 家に2人きりの時はあんなに可愛いのに学校ではなんでこんなに暴力的なんだろう。解せぬ。 しかも私が黒子になんかしたんじゃなくて、黒子が私になんかしたんだからね。言わないけど。 「おはようございます、相坂さん」 「相坂さんおはよッス!今日もかわいいッスね!」 「おい黄瀬、こいつ口説いてもなんも出ねーぞ」 「大輝は本当に私に殴られたいようだね」 「つばきは僕の言いつけを守る気が無いようだね?」 「すまっせんした!」 ぎり、と緩みかけた頭上の手の力が再び強まる。 もうやだよお赤司さんめんどくさいよお。 キセキに手を出さないこと、キセキをないがしろにしないこと、キセキに過剰なスキンシップをとらないこと。 以上、赤司様々によるキセキ三原則だ。三原則で意味合ってんのかは知らない。 とりあえずこれを破る、もしくはそれに近しいことをしようとすれば否応無しに赤司からの罰を受けるはめになる。 私に自由は無いんですか。 「とりあえず3人ともおはよう、こんな姿勢での挨拶になって申し訳ないと思っています」 頭を掴まれ机に顔面抑えつけられたまま軽く手をあげて挨拶のお返事。 青峰は爆笑し、黄瀬は「虐げられる相坂さん可愛いッス!」と恐ろしい事を口にし、黒子は赤司を止めてくれているようだった。 私の味方は黒子だけだよ…黒子も悪魔だけど…。 まあいいだろう、とどうやら彼の加虐心は満足したらしく、赤司は私の頭から手を離した。 これ大丈夫?私の鼻潰れてない?ちゃんと見れる顔?と3人に問いかける。 どうやら問題無いようだ。 元からそんなでもねーだろと言った青峰の言葉は耳に届かなかった事にした。 「そういえば黒子君、ちょっと昨日の宿題でわかんないとこがあったんだけど、」 昨日、赤司と共に復習を兼ねた勉強タイムをしたにも関わらず、国語のプリントの存在をすっかり忘れていた私はそれを取り出して、黒子に見せた。 どこですか?と黒子が体を屈める。 ちなみに青峰と黄瀬は勉強の話なんてしてらんねーといった様子で、各々の席へと戻って行った。 「ああ、ここはですね…」 現代文なら良いのだけれど、古文漢文はどうにも苦手だ。 黒子のわかりやすい説明にふんふんと頷き、プリントにシャーペンを走らせる。 まじで黒子、国語は得意なんだなあ。さすが文学少年。 あ、黒子が家庭教師とかいんじゃね?似合いそう。 黒子先生、休憩してください〜とか言って息子に勉強教えてる黒子にケーキと紅茶の差し入れ持っていきたい。ありがとうございます、お母さんとか言われたい。やばいめっちゃ可愛いそれ。 なんて妄想の世界に入り浸っていたら、くい、と控え目にスカートを引っ張られた。 座っているからパンツが見えるとかいう心配は無いけれど、いきなり引っ張られるとさすがに少しびっくりする。 犯人は当然のように、私の隣の席に座る赤司で。 「なんで」 「ど、どしたんですか」 ぽつりと零れた言葉に、冷や汗が流れる。 やだこわい。もしかしてこれもキセキ三原則を破っちゃう感じのあれでしたか。アウトだったんですか赤司さん。 でも勉強見てもらうくらい良くね!? まあじっくり考えて元大学生の私が正真正銘中学生の黒子に勉強を教わるっていう現状は結構アウトだけどな! 「何で、僕じゃなくて、テツヤに聞くんだ」 ぼそぼそと今にも泣くんじゃねーかってくらいの声でそう呟いた、赤司の声は、きっと私と黒子にしか聞き取れなかったと思う。 むしろこの喧騒の中、しっかりと聞き取れた私の聴力を褒めて欲しい。 「いや、昨日訊き忘れてたんで…あと黒子は国語得意らしいし、適任かなと」 「僕は全教科得意だ」 「あ、そうですね、はい」 自慢乙。言いたいけど言ったら死にそうだから言わない。 「大丈夫ですよ赤司君、相坂さんには僕からちゃんと、古文の解き方を教えておきますから。君は安心して、そこで1限目の準備でもしていてください」 「…それには及ばないよテツヤ。身内の不始末は僕の不始末。つばきの勉強は僕が見ると決めているんだ。テツヤに迷惑をかけるわけにはいかないからね」 「それなら僕だって、主将としてバスケ部に尽力してくれている赤司君の手を煩わせるわけにはいきませんよ。僕なら委員会も一緒ですし、いつでも相坂さんのお手伝いをすることが出来ますから。2人きりで、ね?」 「いいんだよテツヤ無理しなくても、つばきは理解力に欠けるから相手をするのは大変だろう。その点僕は昔からずっと一緒にいた分、彼女がどこを理解してどこを理解していないのかがすぐにわかる。それに家も近くだから、それこそ僕の方が適任だ。いつだって2人きりで勉強が出来る」 まあその昔から一緒だったつばきと今の私って多分ほとんど結構別人なんですけどね。 仮にパラレルワールドの自分として顔形や思考回路は同じだったとしても、環境が違えば性格も考え方も変わるし。 赤司達の話を聞く限り、結構どころかまったく別人だったと考えていいと思う。見ろよ私のこのスルースキルと楽観っぷり。 ていうかこれはあれですね、少女漫画でよくある「私の為に争わないで!」展開ですね。おいしいです。 静かな言い争いをする赤司と黒子まじ可愛い。 しかしプリントが進まないのは困るので、私はすたこらさっさとその場を抜け出し、学級委員長で学年10位以内の学力を持つ笹本ちゃんの席へと向かうのだった。 ← → back |