11 今日は図書当番も無いし、平和な1日だった。 授業は相変わらずさっぱりぽんだったが。 いやでもノートはちゃんととったし、一応しっかりと授業は聞いていたし、家に帰ってから赤司に復習のお手伝いをしてもらえればその内追い付くだろう。 今のところ理解出来ないのは数学と英語と科学だけだし。あれこれ五教科の過半数じゃね。 そんな感じでまあ1日を終え、しかしまだ1人であのマンションに帰るには不安のある私は、体育館のステージに座ってぼんやりとバスケ部の練習を眺めていた。 想像していたのと違って、出入り口できゃーきゃーと歓声を送る女子生徒、というものはいない。 数人の女子が2階のギャラリーで練習を眺めている程度で、思いの外静かなものだった。入場制限でもしているのだろうか。 確かキセキの世代の才能が開花し始めたのってこの時期だよなあ、と、黄瀬との1on1真っ最中である青峰を眺めながら考える。 もうちょっと早かったっけか。 少なくとも2年の秋なのだし青峰の才能は開花しているだろう。 てことは、今日部活に出ているのはそれなりに珍しいことなのか。 「にしても速いなー」 生粋の文系である私には追い付くどころか目で追うことすら出来ない。 お前いつの間にそっちに動いたのって感じだ。 客観的に見てこれなんだから、対峙している黄瀬にはもっと速く見えているのかもしれない。 それでもぎりぎりで追い付いてはいるのだから、黄瀬もすごいと心底思う。 黒子はどうだろうか、と目線をずらす。 別のコートで、黒子は紫原と緑間と共に、パスの練習をしているみたいだった。 いっぱい汗をかいて、頑張っている。 こんなに一生懸命な黒子が、後にキセキの世代から見放されてしまうのだから、世の中ってのは厳しいなあと他人事に考えた。 いやだってまあ、実際他人事だし。 どうにかしてあげたいとか思わないわけでは無いけれど、私にはどうしようもないことだ。 あのキセキ厨赤司でさえ、きっと原作通りに黒子の力を不要なものと判断してしまうんだろう。世知辛い。 まあがんばれ黒子。君には君の光がある。 やだ私すごいポエマー。 「そんなにテツヤが気になるのか」 「おっほう!びびらせないでください赤司さん」 変な声出たわ。 ステージの下から私を見上げ、不機嫌そうな赤司に頬を膨らませてみせる。 うわ顔赤くなった。病気だなこの人。 「あと30分で終わる。暇なようなら先に更衣室で待っててもいいんだぞ」 「いやいや大丈夫っすよー。赤司さんが頑張ってる姿も目の保養になりますし」 お世辞くさいが、なんとなく物は試し感覚でそう口にすれば、赤司はそれはそれは嬉しそうに口元を緩めた。くそ、かわいい。 ヤンデレヤンデレと脳内で茶化してはいたが、どうやら本当に赤司は私という人間を好いているらしい。理由は知らん。 いとこだって言ってたし、きっと昔から一番近くにいた異性が私だけだったとかそんな感じなんだろう。よくわからんが。 まあ私も赤司のこと嫌いなわけじゃない、っていうかむしろ好きすぎて生きるのが楽しいくらいのレベルだし、問題無いと思う。 まあそれを言うなら黒子や他のキセキだって同じくらい大好きなんだけどな! 中学生の天使っぷりまじやばい。生意気なとこもまたくそかわ。 「つばきは変なとこで口が上手いな」 「どーも」 「今から6人で3on3をするんだ。僕、敦、涼太と、大輝、真太郎、テツヤのチームに分かれてね。どっちが勝つと思う?」 問いかけられ、ふうむと悩む。 トップスコアラーの2人がいる青峰緑間黒子チームはきっと強いだろう。攻撃型っぽい。黒子の見えないパスも厄介そうだ。チームメイトにも効くのかはいまいちわからないが。 対して赤司紫原黄瀬のチームは、紫原がいることでかなりの防御力があるんじゃなかろうか。そしてなにより、赤司の存在。彼は負けたことが一度も無いらしいのだから。 「そりゃあ、赤司さんのいるチームなんじゃないんですかね」 「、そうだな」 ふ、と綺麗に微笑んで、赤司は私にタオルを預けコートの中へと戻って行く。 それを追うようにコート内へと視線を向ければ、ぱちりと黒子と目が合った。 小さく手を振ってみる。けれどその手は振り返されることなく、なにか、黒子の口元が動いた気がした。 何て言ったのかわかんなかったからいいけど、それにしても手ぇ振ったのに振り返してもらえないのって、結構さみしいのね。 ← → back |