呪具 [5/56]


研究員っぽい人がスマホのようなものを操作すると、何もないところからぽんと二つの白い箱が現れた。そしてそれらを、私と彼に差し出す。
開けてみれば、箱の中にはピアスが二つ。小さな石にチェーンが下がり、更に小さな石がぶら下がっている、あの揺れるのがかわいいデザインのピアスだ。
彼に渡されたものも覗いてみれば、そちらもやはりピアスだった。けれど彼のピアスは、小さな石が二つと、チェーンで繋がれた二つの石。
しばらく私と彼のピアスを見比べて、研究員っぽい人に視線を向けた。

「この石が、さっき言ってた呪具? ですか」
「はい。察しが良いですね」

私のピアスには石が計四つ。彼のピアスもまた、四つの石。となると、状況的に想像はしやすい。
ピアスを選んだのは、たまたま私も彼も耳に穴があいていたからだろう。こういうのもやっぱり縁、なのか。

「入浴時等は外しても構いませんが、出来うる限り長く、そのピアスを身につけていてください。また、審神者様と――補佐様は、なるべく共に居ることを心がけてください。勿論、お互いの精神的負荷とならない範囲で、ですが」

そうすれば霊力はより馴染み、供給もしやすくなる、と。
ここらで選択肢間違えたかなあと思ったが、黙っておいた。彼が神妙な顔で頷いていたからである。

その後は一時間かからないくらいの説明を受け、さっきと同じ謎技術で宙から現れたマニュアル等を渡され、ついでに私が持参していたお金をこの時代のお金と換金してもらい、今日は解散となった。
ちなみに霊力供給機、もとい審神者補佐としての給料は、審神者である彼から支払われるらしい。お二人で話し合ってくださいね、と告げられた。えっ……めんどい……。
また一週間後に様子を見に来ると担当官が告げ、彼の先輩審神者らしい男性も何かあったら何でも言ってくれと彼に微笑み、彼らは正門から帰っていった。

さっそく付けたピアスをいじくりつつ、霊力供給機、ねえ……と内心独りごちる。いまいち実感がない。

「思った以上に時間使っちまったし、今日は風呂入って寝て、話し合いは明日にするか。何か必要なもんがあったら言ってくれ。用意する」

彼は、口調こそ変わらないものの、どことなく下手に出ているような態度だった。負い目を感じている、というか。
しかし必要なものがあるのは事実なので、今日買ったものを思い出しつつ、ええとと指を折っていく。

「まず最低限化粧水と乳液、あっクレンジングも。シャンプー類はあるものを使っていいならそれ使うけど、石けんとか言われたらさすがに……。あとヘアブラシと、欲を言えばヘアオイルがほしいな。それと歯ブラシ……この時代も歯ブラシ使うの? なんか、うがいするだけで歯はつるっつる! 虫歯も全快! みたいなうがい薬発明されてない?」
「残念ながら普通に歯ブラシだな」
「日本人もっとがんばれよ!」

ていうかお前欲張りすぎ、と彼が吹き出すのを見て、心の隅でほっとする。そうしてから、苦笑混じりに呟いた。

「もちろん、出世払いで頼みます」

何故かそれは、そんくらい奢ってやると拒否られたが。じゃあもっとねだればよかった。


 *


その日の夜は刀剣男士たちと彼が入ったあとの大風呂を借り、毎日露天風呂入れるとかセレブぅ、と思いつつ、浴槽の清浄機能を持つらしい大量のアヒルにびびるなどした。
部屋は彼の住居でもある離れの一室、というか彼の隣室を借りることになり、遠い目をする。な〜んで私は元同級生ってだけの男とルームシェアみたいな状況になってんだ。霊力供給してるからほぼ一蓮托生? みたいな? ははっウケる。
それでも身体は疲れていたようで、結局奢ってもらう形になった化粧水やらで肌を整え、髪を乾かしブラシで梳かして、ふかふかの布団でぐっすり眠った。
隣の部屋で彼が寝ていることも、ここが刀剣男士たちの住まう本丸であることも、その時ばかりは全部忘れて。

さて、翌朝。
五時にセットしていたアラームに叩き起こされ、半ギレ気味にアラームを止めてから無理矢理に身体を起こす。寝起きのぼんやりとした頭のままなりに、ここが本丸で、自分がどういう状況にあるかはあっさり理解出来ていた。
離れの洗面所で顔を洗い、化粧水類をつけてから軽く化粧をし、おそらくまだ寝ているだろう彼に黙ったまま階下へ向かう。
手にしているのは、昨夜彼から受け取った、この本丸の見取り図だ。それと睨めっこをしながら渡り廊下を進み、右へ左へと母屋を進んでいく。辺りにはふわりと、朝食の良い香りが広がっていた。……遅かったか。

霊力供給しかすることがない、それもピアスつけて彼の側にいれば済む仕事なのだから、家事くらいしか手伝えることはないだろうと思っての早起きだった。
だけど、私はこの本丸のタイムスケジュールを知らない。今現在は六時前で、私としては朝食まであと二時間くらいあるんだが、この本丸は朝食が七時とか六時からの可能性もある。明日は四時くらいに起きるか……何時に寝ればいいのかなこれ……。

ようやく台所に辿り着けば、六人の刀剣男士がせっせと朝食作りをしていた。
これは手伝うどころかかえって邪魔になるだけのやつではないか? と腰が引ける私に気付き、まず二人の視線がこちらへ向けられる。
今剣と岩融だった。なんかどうにも、今剣とも縁があるな。

「おはようございます。あの、何かお手伝いを出来れば……と思ったんですが」
「おはようございます。てつだい、ですか。そうですね」

しばらく悩んだ素振りを見せる今剣に、やっぱりかえって邪魔なやつだったかと早くも後悔が押し寄せてきた。かといって手伝えることないなら帰りますねー! とも言いづらい。
どうしたもんかと目を泳がせていれば、ぬ、と私の身体に影がさした。一歩身を引いて、見上げる。岩融が私を見下ろしていた。

「主から話は聞いておる。主の補佐となるそうだな! 少しばかり遅かったが、手伝いに自ら訪れるのは感心だ」
「は、はあ、いえ、はい……」
「いやしかし補佐殿は小さい! 主も小さいが、更にだ。あとは膳を大広間へ運ぶだけだが、その細腕で運べるのか?」

で、でけえ、こええ、と内心で震えてはいるが、それでも岩融を知っている分まだマシだ。そう、彼と比べれば私なんて全然マシなのだ。
だから心を奮い立たせて、がんばります! と首をひねって岩融を見上げた。首が痛くなりそうだった。

「やるきじゅうぶんなのはよいですが、おなごがねまきすがたのままあるきまわるのはどうかとおもいますよ」
「む、そうだな。着替えはないのか?」

今剣の言葉に、奮い立たせたやる気の置き所を見失いつつ、己の姿を見直す。
温泉街とかだと普通に浴衣で外歩いたりするし、ていうか浴衣ってどうしても祭で着るものみたいな感覚が強いし、まさかそう言われるとは考えてもみなかった。刀剣男士的にはアウトなのかこれ。
ていうか昨日の今日なんだから汚れてもいい私服とか持ってるわけなくねえ? とか、まあ色々言いたいことはあったんだがそれは黙し、「ないです!」と無駄に元気よく答えておいた。早朝テンションってやつである。

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