極 [54/56]


※今剣極バレ



一枚目の手紙が届いた時。

「義経公に会ったって……うわ……どうしよう……、これ元の主のとこにいっぱなしで、帰ってこないってこともありえるんじゃねえの……? すげえ嬉しそうなのが文面からも伝わってくる……」
「考えすぎだっつーの。主、そういうとこあるよなあ」

手紙に皺をつけないよう、けれどわなわなと震える彼。獅子王はため息交じりに、彼の背をパァンと叩いていた。思いの外勢いを付けすぎたようで、彼はつんのめっていた。
帰って来ないかも、と思う気持ちはわからんでもないが、あの今剣においては有り得ないだろう。
今剣さんはちゃんと帰ってくるよ、と私も彼を慰めた。


二枚目の手紙が届いた時。

「どういうことだ……? 今剣が、いない? だって今剣は、義経公の守り刀だったんだろ? あ、俺の今剣がいるから……とか?」

昨日のおろおろはどこへ行ったのか。ううんと首をかしげる彼に、けれど獅子王は何も返さない。知っているのかもしれない。
どう思う? と私にも声をかけられたが、なんと返したものか、曖昧に首を振ることしか出来なかった。
彼は首をかしげながらも、手紙を大切に棚の中へしまい込んだ。


三枚目の手紙が届いた時。

「お前、これ、知ってたんだろ!? 何で教えてくんなかったんだよ!」
「落ち着けって主!」

今剣からの手紙を、それでも丁寧に机に置いた彼は、私に詰め寄った。
もちろん知っていた。今剣が、歴史には存在しない刀であることを。実際どうかは詳しくないのでわからないが、少なくともこの世界で、源義経が今剣を手にしていたのは創作でしかない、そういうことになっている。
知っていて尚黙っていたのは、そうすべきだと思ったからだ。私だって、私の今剣を修行に出すまでは、知らなかった。

「こんな、希望を絶つみてえな方法で、俺は今剣を俺のにしたかったわけじゃない!」

その言葉を、彼が言うのはなんとも言えなかった。
希望を絶つような方法で、主を自分たちだけのものにした。今剣は、そういう手法をもって、彼をこの世界に縫い止めたのだから。
まあもちろん、そんなこと言わないんだが。

「今剣さんを修行に出すと決めたのは君だし、行くと決めたのは今剣さん自身だよ。君が結果をどう受け止めるかは、私の関わるとこじゃない」
「……お前は、そういう奴だよな」
「残念ながらね」

以降一日、彼は私と口をきかなかった。


今剣が、帰ってきた時。

「ぼくは、すこしおとなになってかえってきましたよ。ただいま、あるじさま」
「今剣、……俺、」
「だいじょーぶです! ……すこし、かなしかったですけど……それでもこれが、ぼくのれきしです。それにぼくには、あるじさまがいます。ぼくは、あるじさまのまもりがたなです! まえよりもずーっとつよくなりましたから、いっぱいたよってくださいね、あるじさま!」
「……っ今剣!」

ごめんなあ、と声を上げ、彼は極となった今剣を抱きしめる。
やっぱりどこか今剣は悲しげであったけれど、それでもとっくに吹っ切ったようで、嬉しそうに彼の抱擁を受け入れていた。私の側にいる獅子王へドヤ顔を向けるのも忘れない。ぅゎ極短刀っょぃ。

落ち着いてからは執務室に移動し、極になった今剣のステータスのチェックや、精神面が本当に落ち着いているかなんかのカウンセリング。
今剣より彼のカウンセリングをすべきなのでは? とうっすら思ったので、後で政府に打診してみようと思う。確かそういう窓口もあったはずだ。

修行セットはまだ余っているし、今剣の帰参を聞いて修行に出たがる短刀もいたのだが、彼はしばらく間をあけるつもりのようだ。
戦力面を考えると、結局は行かさざるを得ない。錬結を終えた今剣のステータスは彼がよろめく程のものだったのだし、当然だ。
でもまた、同じように、希望を絶つような目に遭わせてしまうとしたら。彼は修行に出す前に、短刀たちの情報収集を始めたようだった。

「結局は、しなきゃいけねえんだろ。わかってる。これは戦争だって、何度も言い聞かせてきたし、拉致られた時にも目の前で戦う刀剣男士を見て、実感した。
 だからお前は、俺に任せたんだろ? 俺がこの本丸の主だから、俺が決めるべきだって。わかってんだけどさ、お前も補佐なんだから、何を考えてたかくらいは教えてくれよ。こんな驚きは二度とごめんだ」

翌朝、早朝のティータイム時に彼から告げられる。うすらと隈が出来ているのは、遅くまで情報収集をしていたからだろう。
記憶している限り、今剣より闇が深い感じの短刀はいなかったはずだ。多分。極の情報が来たとしたら、不動の辺りはちょっと怖い気がするけど。

「複雑だなあと思ってたんだよ。私が何を言おうと、戦況考えると結局はしなきゃいけないもんだし、でも決めるべきは君だろうし。でも、ごめんね。次からはもうちょいちゃんと、相談に乗る」
「そうしてくれ。俺は刀のことなんざ詳しくないし、未だにどいつが誰に所有されてたか、いまいちわからんとこがある。お前は詳しいんだろ?」
「そこまで識者ではないよ。私も知らないことは多い」
「指揮者?」
「君も割とバカよね?」

一拍をあけてから二人で笑い合い、どうにか仲直り出来たことにほっとする。
意外と、彼に口をきいてもらえないのは堪えるのだ。それでも朝になるとこうやってティータイム――相変わらずティーの出番はほとんどないけれど――の準備をしているのだから、素直というかなんというか。

母屋の方から、今剣の声が聞こえてくる。髭切も一緒のようだ。
おはようございまーすと元気な声に、彼はやわらかく笑みを浮かべた。

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