対話 [49/56]


「きみと落ち着いて話す時間が、なかなかとれなかったなあ」

母屋の大広間が、どうにも浮いてる感満載のクリスマスムードに飾り付けられている中。ツリーに雪に見立てた綿を乗せながら、鶴丸がぽつりと告げた。
落ち……着いて……? と思わず周囲を見渡してしまいつつ、私は色紙を飾り切りしている。
確かにツリー近辺で作業をしているのは私と鶴丸だけで、他は多少離れた位置で壁にリースを飾ったり、わっかに繋げた色紙を貼り付けたり、と別の作業をしているが。

落ち着いては、いないと思うんだよなあ……。

「まずは、そうだな。主を救ってくれたこと、改めて礼を言う。あの女から助け出したことだけじゃないぞ。きみがここに来てから今まで、ずっと、全部だ」
「……どういたしまして、と言うのも変な感じですが。私だけの力ではないですけど……いえ、ありがたく受け取らせていただきます」
「ああ、そうしてくれ。もちろん俺たちがいてこそだ、そこは譲らない。それでもきっと、俺たちだけじゃあだめだったんだ。きみが主の傍にいると選んでくれたことを、俺は感謝している」

ちらと見上げるが、鶴丸の視線はツリーに縫い止められていた。綿は綺麗なバランスでツリーに乗せられ、さながら本物の雪みたいである。
これ私が作ってる飾り、悪い意味で浮かないか? 一応クリスマスらしいデザインに切ってるけど、なんか七夕飾りに見えてきた。

「そして、一つ謝らせてくれ。きみを疑い続けたこと、悪いことをしたとは思っていないが、きみを追い詰めていただろう。すまなかった」

色紙を見つめていたところで視線を感じたので、顔を上げる。
鶴丸は確かに、申し訳なさそうな顔をしていた。ちょっと記憶を辿ってみれば、ああ確かに、そういやなんか気にしてる風なことを言ってしまったような気がする、と思い至る。
でもそれに関しちゃ結局は、自業自得だ。本当に隠したいなら、端からバレないように行動してりゃいい話だった。そうしなかった私の落ち度だ。

「それに関しては、お気になさらず。悪いのは私です。それより人のこと勝手に哀れんだ方を謝って欲しいですね」

若干棘を滲ませることが出来たのは、相手が鶴丸だからに他ならない。同じくあの場にいて、話を聞いていただろう薬研相手には、こうは出来ないだろう。そもそも薬研が私を哀れんでいたかどうかなんて、知らないんだが。
主の刀剣男士として、一番にずっと、私という不穏分子を疑い続けてくれた人。彼の刀剣男士として考えれば、これほど信のおけるものはいない。
それはそれとして、私の落ち度だとはわかっていても、まあ普通にめんどかった。めんどかったし、あの時の私にとって、可哀相になあとか言われるのは、真面目にキツかった。
今でも出来れば、誰にも言われたくない言葉だ。

「ああ……そうだな。本当に、すまなかった。不可解な点にばかり目を向けて、きみの心情なんてものはちっとも考えちゃいなかった……すまん」
「いいえ。謝っていただけたのなら、それで充分です。……こちらこそ、すみませんでした。鶴丸さんにも、随分と気を揉ませてしまったでしょう」
「まあ、そりゃそうだが……いやしかし、げえむの中で、審神者をしていたとはなあ……。俺の考えも、一片くらいは合ってたわけだ」
「鶴丸さんは歴史修正主義者側、膝丸は政府側だろうとなんとなく考えが固定されてたようですけどね。他は知りませんけど」

ばつの悪そうに頭を掻く鶴丸から目を離せば、遠くでリースを拵えていた膝丸がきょとんとこっちを見ている。名前だけが聞こえたんだろう、何でもないよと手を振った。

途中、そんなにもあっさりと許してしまっていいのかい? 女の子の心を傷つけたと言うのに、だなんて声が鼓膜を撫でていったが、無視である。

「確か、初期刀が山姥切、初鍛刀が今剣だと言っていたな。この本丸と一緒だ。もしかして他も同じなのかい?」

咳払いを一つしてから話の流れを少しばかり変え、鶴丸はその場に座り込む。
綿は飾り終えたようで、次はオーナメントの選定に移るようだ。

「全部確かめてはいないですけど、初めて入手した刀種刀剣は完全に一致してましたね。縁とか言われても一周回って気持ち悪かったくらいです」
「今まさに凄まじい縁だなあ、と言おうとしたところだ」
「それはすみません」

以降が完全に一致しているわけではないのは、私の膝丸と髭切、そして三日月以降の刀剣入手順で確認は出来ている。私の本丸の入手順を確実に覚えているわけじゃないけど、小狐は割と初期に入手していたはずだ。だから違うと思う。
それでもやっぱり、全刀種の初入手が一緒とかいうのはなかなかきもい。縁とか運命とかそんなチャチなモンじゃねえ。

「きみが一等気に入っていたのは、やはり膝丸か」
「何でそう思うんです?」

また膝丸の視線が向けられたのにはなんとなく気付いていたが、申し訳なく思いつつ無視らせてもらった。
なんかあんまり聞いて欲しくない話題な気がする。恥ずかしい的な意味で。

「演練の時もそうだが、きみ、財布に膝丸の写し絵が入った木の板を持ってるだろう。栞か? あれは」

そう言われた瞬間、私は思わず勢いよく立ち上がってしまった。多分顔が真っ赤だ。周りの状況なんて耳にも目にも入らないまま、鶴丸だけを見下ろす。

えっな、何で、エッ!? 何故知ってる!?

「い、一度きみ、本を読む時に使ってただろう? その時に、」
「アアアウワアアア」

今度は勢いよくうずくまった。ば、バレてた。なんかもう今までで一番ショックな出来事だ。誰にもバレたくなかった事実をまさか! こんなところで! バラされるとはなァ!
驚きだぜちくしょう埋まりたい!!

「どうした主、俺が、何なんだ?」
「ヒョエッ」
「すごい声が出たな」

ぽんと肩を叩かれ、頭上から膝丸の声。
いや、いやもう無理じゃん……だって刀剣の、しかも抜き身のが印刷された栞とかさあ……全裸ブロマイド持ってるようなもんじゃん……知らんけど……。感覚的にはそういう感じでしょお……。
それを本人に知られ、アッウワッ無理、今人生で一番おうちに帰りたい。

アアア、とうずくまっている内に、多分鶴丸が膝丸へ顔を向ける。
そうしてあろうことか、なんか膝丸わかってない風だったのに、バラしやがった。

「いやな、補佐が膝丸の描かれた栞を」
「栞?」
「鶴丸お前絶対許さねえからな!! 膝丸は髭切とチェンジ!!! 台所行ってこい!!」

思わずのブチギレである。鶴丸も膝丸もポカーン、である。
膝丸はともかくとして、鶴丸のポカーンっぷりは凄まじかった。そらそうだ、普段一応敬語で、なるべく丁寧にさん付けして呼んでる人間、しかも別に主でもなんでもねえ居候みたいな奴が、何を言うかと思えば「鶴丸お前絶対許さねえからな!」だ。驚くのも無理はない。ワンチャン斬られてもおかしくない。
でも絶対許さない……今斬られたら取り憑く……女と二重で鶴丸の背後霊になってやる……。
わたしは背後霊じゃないんだがなあ、とか聞こえたけど無視だ。背後霊みたいなもんだろうが。

私の絶叫が聞こえたからか、なんだなんだと大広間に人が集まってくる。ちらと視線を向ければ髭切も、ついでに彼もいた。隣の獅子王は今月の近侍だ。
鶴丸と膝丸の間でうずくまっている私に何があったと思ったのか、駆け足気味に彼が近寄ってくる。そうしておろつきながら、ど、どうした? 気持ち悪いのか? と背中をさすられた。
体調は大丈夫だけど精神がマッハでやばいんです。

「いやあ、はは、っははは! きみ、うはは! 猫を脱ぐとそういう風になるのか! いや、くは、ふ、こりゃあ驚きだ、良いものを見せてもらった! ははは、いや、すまんすまん、ふふ、悪い、だがなあこれは、あっははは、」
「つ、鶴丸……?」
「笑いすぎだぞ鶴丸……」

どうにかこうにか耐えようとはしているものの、鶴丸氏大笑いである。彼が引き気味に困惑し、膝丸はほとんど呆れていた。他の面々はきょとーんだろう。

「絶対許さない、ああ結構だ! いつものきみも悪くはないが、俺はこっちの方が好きだな!」
「この先鶴丸様だけ余所本丸刀剣男士と同様の対応をさせていただきます」
「おっと、それは勘弁してくれ。つまらん」
「お断りさせていただきます」

相変わらず状況がわかっていない彼に、ため息を吐く膝丸、そして何やら目覚めてしまったらしい鶴丸国永。

――ほら、あっさり許すべきじゃあなかっただろう。君とこの刀剣男士は合わないんだよ。

耳元で女が囁く。内心チッと舌打ちをしてから、うるせえあんたなんか鶴丸と口調似てんだよ、と口には出さず返事をする。そこで初めて女は、ええ……と困惑したような声を出した。
ちょっとすっきりした。

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