違和感 [26/56]


今日は一日休みにしたと朝食時に伝えれば、大広間は一瞬どよめいた。
見習いは真剣に、時には全休も必要、とメモを取っている。真面目な女だと思った。補佐と相性は良いかもしれない。

「やすみにして、なにかするのですか?」
「ん……そうだな、城下町にでも行くか。もちろん行きたくない奴は本丸で、内番なり昼寝なりしといてくれりゃいいが。獅子王、確か手形が余ってたよな?」
「確か、あと四つだったと思うぜ」
「んじゃ俺と補佐に着いてくる奴のかして、四班だ。適当に組んで、十時に正門集合な」

いつもならこう言えば、わあわあと俺の周りに刀剣男士が集まっていた。一緒に行きましょう、何々を見ましょう、どこどこで買いたいものがあるんだ、主様、主、と。
けれど今日は、違った。

「じゃあ俺、見習いと行くー。見たい爪紅があんだよね」
「あ、僕も。見習いは髪長いんだから、何かで縛った方がいいよ。髪飾り見繕ってあげる」
「なら僕もお供しようかな。城下町の呉服屋に、見習いちゃんに似合いそうな帯があるんだ」

その後もわらわらと、見習いの元に刀剣男士が集っていく。驚きはしたが、まあ確かに見習いはそうお目にかかれないレベルの可愛さだし、男所帯であれば仕方のないことかもしれない。
困惑しながらも嬉しげにしている見習いを見やってから、補佐へ視線を移した。補佐はぐるりと周囲を見渡してから、見習いの元に歩み寄る。

「見習いちゃん、どうします? 昨日話してたコスメ、一緒に見に行けたらと思ってたんですけど……」
「あ、私もそう思ってたんです! 一緒に行きましょう、補佐様」
「良かった! 私は審神者の彼と、膝丸と一緒だから……近侍の獅子王さんも合わせて、今五人ですね。あまり大所帯になると店側にも迷惑ですから、」
「あと二人……くらいでしょうか? ごめんなさい、皆さん。せっかく誘ってくださったのに」

申し訳なさそうに目を伏せる見習いに、周囲はいいよいいよと手を振って、最終的に加州と大和守が一緒について行くこととなった。
俺はなんとなく、見習いは別行動でもいいかな、と思っていたんだが。でも補佐は、俺から離れ、見習いだけを選ぼうとはしなかった。そこに少しだけほっとしている内に、俺は刀剣男士に抱いた違和感なんてすっかり忘れてしまっていた。


城下町では、ほとんど俺と膝丸が放置されているような状況だった。
化粧品やら服やらに盛り上がっている補佐、見習い、加州、大和守、獅子王。かつての恋人と買い物に出かけた日なんかをぼんやり思い出しつつ、同じく疲れ切った様子で紙袋を提げている膝丸に視線を向ける。

「こういう時の女って、何でああ元気なんだろうな」
「うむ、まったくだ。……割合は男の方が多いが」
「あいつらはなんか、こういう時はほとんど女だよな」

まさか獅子王までもが女子高生さながらにテンションを上げているとは思わなかった。妙にげんなりとしつつ、けれど離れるわけにもいかないのでちんたら後を追う。
補佐は随分と楽しそうだった。見習いに似合いそうなマニキュアを選んで、加州にダメだしされたり、髪飾りを選んで、今度は大和守にダメだしされたり。それでも笑顔で、見習いと笑い合っていた。

「――あいつ、楽しそうだ」

ぽつりと呟く。
俺といるよりも余程、楽しそうに笑っていた。あいつは元々、俺のことは元同級生だとしか言っていなかったし、仕方ないことなのかもしれない。
それでも、とまたぐるぐるし始める思考の中、膝丸が固い声で問いかけてきた。

「本当にそう思うのか?」

その問いの意味は、理解できなかった。

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