仮契約 [23/56]


割とびびりながら二時間弱ぶりに彼と再会すれば、彼は随分とぶすくれた顔をしていた。

「謝んなよ。俺も謝らない。お前の所為でも俺の所為でもない、悪いのは歴史修正主義者だ」

そんなことを言われたものだから、面食らって彼をまじまじと見つめてしまう。
何を言ってるんだ。

「君は謝るんじゃなくて、怒るべきだと思うんだけど」

ただ巻き込まれただけの、本当に、被害者なのに。

「俺がこの世界に来なけりゃ、お前も引きずり込まれなかった。お前がバカみたいな量の霊力を持ってなけりゃ、俺はこの世界に引きずり込まれなかった。鶏が先か卵が先か、みたいな話だろ。お前に怒鳴る理由はねえよ」
「それはなんか違う気がする……」
「ともかく! 俺とお前は一蓮托生だ。戻るも戻らないも一緒だっつったのはお前だろ。今更お前の所為だの俺の所為だの考えたって、ここに居る事実は変わんねえんだ。どうやって生き残るかを考えようぜ」

な、と肩を叩かれる。思いの外力が強くて痛かったけど、何も言えなかった。
何も言えないまま、頷いた。


担当官と先の女性に案内され辿り着いたのは、妙に重苦しい雰囲気の部屋だった。展示室のような形で、ガラスケースの中に刀が何本も飾られている。
奥にも木箱が並び、その中も刀なんだろうと考えられた。
それで一体どうするのかと思いきや、はいと当然のように二枚の札を渡された。これで何をどうしろというのだ、の顔を隠さず女性に向ければ、至って普通の表情で告げられる。

「この札にはあらかじめ、補佐様から採取した霊力を込めています。祝詞をあげながら宙に投げてくだされば、反応してくださる刀剣男士もいるでしょう」
「つまりいない可能性もあると……」
「それは大丈夫だろう」

そもそも祝詞とか知らないしこれで無反応だったら私めっちゃ悲しくない? と思ったところで、ずっとだんまりだった山姥切が呟いた。
思わず顔を向ければ、室内をぐるりと見渡している。眠っている状態らしい刀剣男士とも、何か感じるものがあるんだろうか。

「確かにアンタの霊力には特別惹かれないが、それだけ量があれば思う存分戦えるだろうと俺でも感じる。今もアンタを気にしている奴がいるくらいだ。……おい、こっちは俺の主だ。あまりじろじろ見るな」

何も見えない宙に向かって牽制する山姥切を見て、いや刀剣男士寝てねえじゃん、と心の隅でツッコむ。
それとも起きたばっかなんだろうか。それはそれで安眠妨げて申し訳ないな。

ともあれさっさとやるよう担当官に急かされてしまったので、女性がルビ付きの書面で渡してくれた祝詞をどうにかこうにか読み上げる。抑揚とか発音とかは知らない。
多分これ石切丸に選ばれることは確実にないだろうな、と思いながらようやく読み終え、ぽい、と札を宙に投げた。
一枚はそのままひらひらと地面に落ちたが、もう片方が見えない壁に貼り付いてしまったかのように、宙で静止している。なにこれこわい。
半分怯えながらその札を注視していれば、ぶわりとどこからともなく桜が舞い、消えた札の代わりに一人の男が立っていた。

「――源氏の重宝、膝丸だ。兄者は、起きなかったのだな」

落ちた札を拾い上げ、残念だ、と独りごちる。私はといえば、予想外な出来事に呼吸が止まったんじゃないかってくらい驚いていた。

「ん、何? 僕は美食家だから……ああ、それは仕方がない。俺は、そうだな」

何やらこちらも空中の何かと――おそらく髭切だろうけど――会話していた膝丸の視線が、私へと向けられる。

「どうやら、縁があるようだったからな」
「……縁」
「前の主とは違う契約のようだが、それもやむなしだろう。よろしく頼むぞ、主」

差し出された手をどうにかこうにか受け取り、握手をしながら考える。
今は持ってないけど、そういえば財布の中に膝丸の栞を入れていた気がする。縁ってそのことだろうか。バレたら恥ずかしいななんかそれ。

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