戦犯 [21/56]


ああ、ああ、何でそれに今まで気付かなかったのだろう。政府の人たちだって言っていた。何者かに奪われた可能性を、示唆していた。
でも、それ以降政府の人に会っても、その可能性について話してくることはなかったし、彼も、刀剣男士たちも話さないから、すっかり忘れてしまっていた。

私の霊力は、いわば箱か何かに詰めてしっかり蓋をされたものだ。そこに無理矢理穴を開けて管を通す役目をしているのが、このピアスで。その管の先が彼に繋がっているから、私の霊力を彼に供給出来ている。
無尽蔵とまで言われた霊力だ。草木や空気、食物なんかから霊力を得て、溜め続けていた。
二十五年間だ。生まれた時からそうだったとしたら。二十五年間、使うこともなく溜め続けた霊力だ。

先週辺りにやってきた担当官曰く、今現在の私の霊力は、住んでいるのが本丸ということもあっておそらく当初持っていたものと同等程度まで戻っているらしい。審神者である彼に供給してはいるが、空気なんかを霊力に変換出来るのだ、減ることはない。
その、今現在の量が、既に規格外だそうだ。審神者としての才能があれば、鍛刀を行えば天下五剣がわっさわさ、刀装は特上しか出来ないし、手入れは手伝い札を用いずとも一瞬で完了、刀剣男士はエブリデイ花吹雪、そんなどこの最強ヒロインだと言わんばかりの量。
半分でもいいから政府に提供してほしいくらいですよ、と担当官は冗談交じりに呟いていた。

さあ、その規格外の霊力は、一体どこに消えてしまった?
山姥切の言う通りであるなら、時空移動が原因じゃない。この本丸に吸収されたわけでもない。でも、私の記憶には、電車に乗ったらここにいた、という事実しかない。
電車に乗ってからここに来るまでの間、もし、万が一、歴史修正主義者が私に接触していたら。私が二十五年間溜め込んだ規格外の霊力を、すっからかんになるまで奪っていったとしたら?

……戦犯、ってこういう時に当てはまる単語じゃないだろうか。

山姥切がじっと私を見つめている中、私は再び新聞やら冊子やらを忙しなくめくり始めた。
さっきまでは、私の前提条件が間違っていたのではないかと気が付いて、この世界の進行度を調べていた。
実装刀剣はてっきり博多までだと思っていた。出陣できる地域は6−2、つまり三条大橋までだったし、そうだとすれば時期も一致する。
でも調べてみれば実際は、髭切と膝丸までの刀剣男士が実装されていた。現時点で顕現できるものの、この本丸に存在しない刀剣男士は、三日月、江雪、小狐、長曽祢、明石、日本号、物吉、後藤、髭切、膝丸となる。ちなみに検非違使ドロップの刀剣も、虎徹兄弟ではなく源氏兄弟になっていた。
ゲームの世界と、この世界は、進行度が違う。それに気付いてしまったから、あの演練を見に行った日、膝丸を見つけた私は放心していた。

今は、敵である歴史修正主義者の動向について調べている。一ヶ月前の新聞、公報から、敵が強くなっただとか数が増えただとか、そういう情報がないかを探している。
見つからなければそれでいい。後で彼を通して政府に可能性を伝え、私の記憶でも何でも探れるなら調べてくれればそれで糸口は掴めるはずだ。
でも、万一そういう記述を見つけてしまったら――。

「……は、うわ、まじか……」

歴史修正主義者の戦力が増大に、本丸襲撃報告も。そんな記事を、見つけてしまった。一週間前のものだった。
主な被害はいわゆるトップランカーのような、ベテラン本丸らしい。だから大事にはならず、審神者や刀剣男士への被害はなかった。本丸自体はほとんど壊滅に近い有様だったらしいが。
歴史遡行軍が強くなったわけじゃない。ただただ、今まで以上に数が一気に増えた。その数は倍近くまで増え、出陣数を増やすよう要請を受けた本丸も多いらしい。
おそらくこの本丸は除外された。最高練度が八十に満たず、それもようやく一部隊分程度なのだから、妥当と言えば妥当だ。無理矢理要請し、刀剣男士が折れてしまえば元も子もない。育成が最優先だろう。

だから、私は気が付かなかった。
私がこの世界に来てから、三週間ほど後のことだ。今この場で関連があると断定は出来ない。けど、この一ヶ月見続けた五年弱分の冊子類。少なくとも私が見た最初の三年半分、そして彼が取り寄せたらしいバックナンバーにも、いきなり歴史修正主義者が強くなっただなんて記述は見受けられなかった。
いやもうこの際、私や彼が思い至らなかったことはどうでもいい。何故、何で政府はこの可能性に気が付かなかった!? 気付いていたなら私の検査なり拷問なり、やったはずじゃないのか。
この世界に私が来てから、いきなり歴史遡行軍の数が増えたんだ。
私の霊力を奪って使って、それで数を増やしたんじゃないかって、思いつかなかったの!?

「今日のおやつは汁粉だぞー……って、どうしたんだお前。顔真っ青だぞ」
「……君、今すぐ担当の人に連絡とれる?」
「は? とれるけど……書類ギリだからとりたくな」
「とって。すぐに。……お願い」

可能性で済めばそれでいい。そんな事実が確認出来ないのなら、私の霊力は時空移動が原因で空になったのなら、それでいいんだ。私より彼のが器用だったってことかな? って話で終われば、私のどうやら悪いらしい顔色も、元に戻るだろう。
それを確認する術は、おそらく、政府にしかない。
敵だと疑われようがなんだろうが、私のせいでどこかの刀剣男士が折れてしまったり、審神者が死んでしまうより、余程マシだ。そういう可能性を抱えたままここに居続けるより、ずっとずっと、マシだ。

「何か、重要なことなのか」

汁粉とお茶の載った盆を置き、彼が私に向き直る。
妙に喉が渇いていた。緊張しているのかもしれない。それでも言い淀むことなく、私は呟いた。彼の目を、真っ直ぐに見つめて。

「私の霊力。もしかしたら、歴史修正主義者が奪ったのかもしれない」

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