縁 [10/56]


数日目にして、なんだかもう恒例のようになってしまった早朝のティータイム――飲むのは緑茶でも紅茶でもないが――にて、私はずっと訊こう訊こうと思っていたことを彼に問いかけてみた。
この本丸の初期刀と、初鍛刀についてだ。
彼は「マニュアル読んだのか、真面目だな」と軽く笑ってみせてから、そうだな、と母屋へ視線を向ける。

「初期刀は山姥切、初鍛刀は今剣だよ。ついでに初脇差が堀川で、初打刀が和泉守で、初太刀が鶴丸。初大太刀は石切丸で、初槍御手杵、薙刀は岩融……言うまでもねえけどな」
「…………」
「どうした?」

ああ、いや、と驚きを隠せずに言い淀む。
正確に一緒、というわけじゃない。私が初太刀や初期刀を除く初打刀を手に入れるような頃は、まだ、和泉守は太刀だった。
でも、山姥切、今剣、堀川、和泉守、石切丸、御手杵……ここまで初めて入手した各刀種刀剣が、被るものなのか。

「ちなみに、二番目の打刀、覚えてる……?」
「あー……確か、歌仙だったかな」

和泉守を太刀として考えれば、初打刀も一致……と。
ううんこれは、縁とか言う気にもならず、なんか気持ち悪くなってきた。こうなるべくしてこうなった、って感じだ。理由も原因も見えなくて気持ち悪い。

若干青ざめつつも適当に言葉を返し、その後もこの本丸についての話を聞いていく。
現時点で揃っている刀剣の数は四十一。数としては初期実装の全員にあたるが、この本丸には三日月と江雪がいない。ついでにサービス開始直後に実装された小狐丸も、ここにはいない。
代わりに、浦島と博多がいる。となれば少なくとも検非違使は既に存在し、大阪城地下調査も終えた後、というわけか。
ゲーム通りであれば、博多がいるのだから明石も既に実装済みであり、京都にも出陣出来るはず。でも、端末を見せてもらった限り、この本丸の短刀たちは軒並み練度が低い。唯一今剣が七十を超えているくらいだろうか。この数日で京都に出陣しているところも見ていないし、まだ手探り状態なのかもしれない。

今この世界がゲームで言うどの辺りなのかを知りたいけど、戦力拡充きた? とか、秘宝の里行った? とかはさすがに言えない。まだだったら後々何でこいつ知ってたんだってなる。
となると、やっぱり黙っておくしかないか。
審神者に与えられる情報を可能な限り見聞きしておけば、その内に理解できるだろう。なんか審神者用の新聞とか雑誌もあるみたいだし。

「あんまり短刀が育ってないんだね」

とりあえずこれだけは気になったので、何でもない雑談のように呟く。彼も気にした様子はなく、ああ、と端末へ目を落とした。

「どうもいまいち使いどころがわかんねえんだよな。普通に出陣させても、刀装一つしか持てねえから怪我すること多いし」
「ふうん。レベル見る限り、メインは太刀と打刀?」
「そ。最近行けるようになった京都は、太刀が全然歯が立たなかったからなあ。打刀に任せてた。その打刀も、どうも微妙でなあ。結局京都は諦めて、今は阿津賀志山と墨俣で育成がてら三日月と小狐丸探しだよ」

うん? と思う。
まさか、え、まさか? 夜戦や室内戦は短刀脇差が有利だってことを、彼は知らないのか?

「ところで、政府からのお知らせとか、審神者用の新聞とかに、目を通しては」
「いるに決まってんだろ? 俺はこの世界のこと知らねえんだから、毎度最低三回は読み返してるぞ」

てことは政府や他の審神者も夜戦有利の刀種を知らない!? 刀剣男士側も!?
短刀脇差なら、自分が夜や室内の方がうまく立ち回れるってこと、理解してそうなのに。主が何も言わないから、そういうものだと思って黙ってる……とか? にしても政府だって、斥候部隊とかを送って、有利となる刀種を解明するくらいはしそうなものなのに。

もしかしてこの世界、私が思う以上に、ゲームと比べて進んでないのか?
そういえば私は、彼が審神者となって五年だとは知っていても、この世界が西暦何年なのかは確認していなかった。
いやでも仮に彼が二二〇五年ちょうどに審神者になってたとしても、五年あればそこそこ調べも進まないか? わからん! 政府側に話を聞きたい!

「さっきからなに唸ってんだお前」
「うん、いや……ううん……」

もし審神者会議だとかそういうのが実際にあったとして、それって補佐も一緒に行けるようなものなんだろうか。行けたとして、誰に何を話す? 誰かに話せたとしても、私の存在が訝しまれるだけの行動なんじゃないか?
でも、これは戦争なのだし。知り得る情報は多ければ多いほど良いはずだろうし。

彼が怪訝そうにこっちを見る中、しばらくうーんと悩み続けていたが。

「失礼するぞ、主! 朝餉の時間だ」
「岩融、もうそんな時間か。んじゃ話は後にして、行こうぜ」

思考をつい隅に置いてしまいながら、岩融めっちゃナチュラルに私の存在無視ったなとぼんやり考え、頷いた。


 *


もしかしなくてもやっぱり私の存在って歓迎されてないな!? と確信したのは、朝食後、堀川に渡された当番表を見た瞬間だった。

月曜から木曜までが離れや蔵の掃除、金曜と土曜に洗濯の手伝い、日曜の朝昼夕食の後片付け手伝い。これだけしか割り振られていなかったからだ。そのどれもが、さほど声かけを必要とせず行えるもの。離れと蔵の掃除に関しては一人でも充分なくらいだ。
勿論、気を遣ってくれた、とも受け取れる。単純に調理に関しては戦力にならないと判断された可能性だってある。
でも、この数日の対応や、今剣の言葉を思い出す限り、やはり歓迎はされていないのだろう。所詮泥棒猫か。泥棒するつもりはまったくこれっぽっちもないんだが。

「どうかしましたか?」

きょとん、と。一枚の紙を見つめるばかりの私に、堀川が声をかける。視線を上げた先、見えるのは悪意なんてひとつも感じ取れない瞳。もちろん敵意だって見えない。
でも、なんとなく、まあそりゃ私は仲間じゃないもんな、と感じてしまうような空気で、もうちょっとこう、多めに仕事をもらえないかと。このままじゃ一日十五時間どころか、二十時間くらい彼と一緒にいることになりかねないと。
言いたかったけど、首を振った。

「いえ、ありがとうございます。私が手伝うことは、もう皆さんは?」
「知ってますよ。各班にもあなたの当番表を配っておきましたから。各当番の班は朝食後に大広間へ集まりますんで、その週の班長に仕事内容を確認してください。僕たちの当番は裏面に載せてあるので」
「はい。お手数をおかけしました。今日から頑張らせていただきますね」

なるほどと裏面も確認し、にこりと微笑む。堀川も人の良さそうな笑顔で頷いて、その場はいったん別れた。
今日は水曜日だから、離れか蔵の掃除か。彼と離れに戻りつつ、この数日過ごした離れについて考える。

週四で掃除するほど、汚れてないんだよなあ、あそこ。

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