諍縁2 [7/27]


二軍はへし切長谷部、一期一振、獅子王、燭台切光忠、鶴丸国永、太郎太刀という太刀中心の部隊だ。参入の遅かった一期一振の練度が十ほど離れているが、持てる刀装の量が多いだけあって、検非違使被害はギリギリに抑えられている。それでも中傷になる率は高いんだが。
その日の部隊長は光忠。新しい刀剣だよ、と手渡されたそれは長曽祢虎徹だとこんのすけによって確認がとれ、うわあ来ちゃった、と思ってしまったのは今でもすまないと思っている。
蜂須賀が浦島たちと共に遠征に行っていたのは、幸か不幸か。ひとまず顕現するしかあるまいと常通りの行動をし、口上を聞いてからは同じ新撰組刀である加州と堀川に本丸案内を任せた。

「きみ、どうするんだ?新たな戦力は喜ばしいが、あれは蜂須賀と仲が悪いんだろう。何か策でも持っているのか?」
「あー……うーん、正直こんな早く来るとは思ってなかったから、まだあやふやなんだよなあ……どうしたもんか」

とりあえず政府への報告はこんのすけに任せて、二軍には再び出陣してもらい、平野の姿を探す。
一軍のほとんどは、長時間遠征へと向かわせてしまった。つまり近侍はおらず、今日は目に付いた非番の子にちょこちょこ手伝いをしてもらっている。
平野はこの本丸でも古参にあたり、まあ正直半年程度で古参も新参もないんだが、初期の本丸を知っているという点ではとても頼りになる短刀だ。同じく古参である薬研や厚、五虎退と比べて書類にも強く、しょっちゅう色々助けてもらっている。
刀剣男士の部屋割りは歌仙と平野を中心に決めてもらっていたので、歌仙不在の今、頼れるのは平野だけというわけだ。

「あ、乱。平野どこいるかわかる?」
「主さん、どうしたの?」

途中すれ違った乱に、長曽祢虎徹が来たことを伝える。加州たちと歩いていた気配はそれかと理解したようで、祝いの言葉の後、平野なら厨に居ると教えてくれた。
三時のおやつを作っているところだそうだ。今日は厨番になることが多い光忠、歌仙、堀川が全員いないので、短刀たちでわいわいと作っているらしい。テレビで見たパフェを、スポンジケーキやフレークから作っているそうだ。凝り性だな。
主である私が甘味作りをストレス発散の一つとしてたまに行うからか、この本丸には料理好き甘味作り好きの刀剣が多い。あの三日月ですら、稀に真剣な表情で白玉を湯がいていたりする。

「乱は抜けてきたの?」
「うん、僕は作るより盛りつける方が好きみたい。あんまりいっぱい居ても、邪魔になるだけだしね。薬研や厚も混ざってたけど、途中で無理だ!わからん!って抜けてたよ」
「はは、まあパフェって一から作ろうと思ったらめんどいしね。んじゃありがと、厨に行ってみるよ」
「はーい。摘み食いしたらだめだよ?」
「了解」

手を振って乱と別れ、厨へと向かう。なるほど、スポンジケーキやらを焼いているらしい、甘い香りが漂ってきた。
パフェをまるごと食べる元気はないが、飾りのビスケットでもあれば後で運んでもらうのもアリかもしれない。そんなことを考えつつ、ひょこりと厨を覗いた。
とっくに気配に気付いてただろう短刀たちが、口々に「主!」「主様」「主君っ」と声をかけてくれる。他の刀種に比べて短刀たちは、無償の信頼をわかりやすく与えてくる。
こそばゆいような、末恐ろしいような、身に余るような。なんとも言えない気持ちになりながら、お疲れさまとひとまず声をかけた。

「平野を探してたら、厨でパフェ作ってるって乱が教えてくれてね。捗ってる?」
「それは、お手数をかけてしまい申し訳ありません。ぱふぇ作りは順調です」
「苺のソースも作ったんですよ!」
「あ、あの、僕は、すぽんじけーきを焼きました!」
「俺はあいすを作ったんだぜ!」

わあわあと手を止めて報告してくれる彼らに、そりゃ美味そうだ、と笑みを向ける。
邪魔にならない位置に背もたれのついたイスを引っ張って逆向きに座り、背もたれに両腕と顎を載せて作業を眺めた。今は生クリームを泡立てているところのようだ。秋田と五虎退はスポンジケーキを一口サイズの角切りにしている。

「ご用でしたら、執務室まで伺いますが」
「いや、ここでいいよ。続けて」

ぺこりと頭を下げて作業を続ける平野に、長曽祢虎徹を入手したこと、蜂須賀とはなるべく部屋を離したいこと、浦島を板挟みにしないようにしたいことなんかを手早く伝えた。その上で、平野なら長曽祢をどこに配置するか問いかける。
電動ミキサーでなく手作業で泡立てている割に、もうすっかりホイップクリームとなったボウルの中を眺め、刀剣男士はこういうとこでもスキルを発揮できるのだな……とぼんやり考えていれば、そうですね、と平野が静かに呟いた。手元は、泡を均一にする動きに変わっている。

「蜂須賀殿のお部屋は居住区の中心やや東寄りですから、西側に長曽祢殿のお部屋を配置すべきかと思いますが……湯殿と厠が西にある以上、出会す可能性は高いでしょう。元より湯殿と厠が一箇所に固まっているので、それを避けるのは難しいのですが」
「そうなんだよねえ。今更、あの子らの為だけに風呂場とトイレ増やすわけにもいかないし」
「いっそ離れに長曽祢さん?住ませればいいんじゃね?」

ぶは、と思わず吹き出してしまう発言をしたのは、アイスを作ったと言っていた愛染だ。今は盛り付け用のフルーツを丁寧に洗っている。

「いや、さすがに長曽祢と二人暮らしはちょっと。同棲は最低でも一年くらい付き合ってからの方がいいって死んだおばあちゃんが言ってたんで」
「まず歌仙殿や長谷部殿が許しませんよ、そのようなこと」
「それな」

まあそりゃそっかあ、と愛染は気にした様子もなく己の意見を取り下げる。

「西側となると、主君の離れに近くなりますよね。それも歌仙さんたちにとっては複雑じゃないですか?同じ刀剣男士とはいえ、やはり主君の元に居た期間が違いますし」
「そうですね。僕としても、主君の御側に新たな刀剣が住まうのは、少々不安に感じます。……いえ、疑うわけではないのですが」

続く秋田、そして器の用意をしていた前田の言葉に、なるほどそういう意見もあるのか、と頷く。
この本丸は割と体育会系というか、練度に関わらず先に来たものの方に発言権がある、みたいなところがある。本丸内で最も戦力となる一軍に属す三日月や蛍も、歌仙や大倶利伽羅不在の時は初鍛刀である薬研に意見を求めることが多い。そんな感じだ。これも多分、私の影響なんだろうけど。
体育会系の部活動よろしく、下級生にあたる新参刀剣が雑用を押しつけられる、なんてことはないんだが、それでも新参には新参の立場を、という雰囲気が見られる。別段、悪いことだとは思ってない。

確かに私個人としても、より近くに信の置けるものがいてくれた方がありがたい。現状、離れに最も近い部屋は歌仙の私室となっており、そこから粟田口短刀、長谷部、と部屋が続いている。
その西側に空室がちらほらあるのは、後に兄弟刀や仲の良い刀剣と同室になったものや、利便性をとって東側を求めたものなんかがいるからだ。ちなみに居住区の東側は、手入れ部屋や道場に近い。

「となると、蜂須賀殿と少々近くはなりますが、中央西寄り……鯰尾兄さんと骨喰兄さんの隣部屋辺りがよろしいのでは?脇差のお二人なら長曽祢殿より偵察値も勝っていますし、鯰尾兄さんは気さくな方ですから、長曽祢殿のことも気にかけてくれるでしょう」
「ああ、なるほど。反対隣か向かい、は〜……」
「向かいは燭台切殿、反対隣は空室です」

今までの意見を受けて総合的に判断し、私の疑問にもすぐさま応えてくれる平野が優秀すぎて驚く。もしかして全員の部屋を覚えてるのか。だとしたらすごい。
位置的にも西側よりは蜂須賀に近付くが、お風呂やトイレに向かう道は別となっているから鉢合わせることもそう多くはないだろう。
他の子から異論が出ないのも確認し、じゃあそれで決まりだな、と部屋の位置を脳内にメモした。
鯰尾と骨喰の意見は聞いてないけど、まああの二振だったら断ることもないだろう。

「とりあえず聞きたかったのはこれだけ。作業中に悪かったね、ありがとう」
「いえ、また何かあればお訊きください。……あ、ぱふぇの盛り付けは乱たちもしてくれる予定なのですが、主も召し上がりますか?」
「申し訳ないけど、今日はいいや。果物が余ったら後で届けて」
「わかりました」

イスを元に戻し、ひらひらと手を振って厨を後にする。
広間へ向かえばちょうど案内を終えた加州と堀川が長曽祢と話していたので、そこで部屋割りについて伝えておいた。
蜂須賀に会ってもそっとしといて欲しい旨も付け加え、来たばかりなのに色々と行動に制限をつけてしまうことに関して謝罪をする。

長曽祢はちょっと困ったように、そしてどこか申し訳なさそうに笑って、気にするなと私の頭を撫でようとした。多分無意識というか、私の外見が彼よりも幼い――実際付喪神と人間の時点で遙かに年下なんだが――から、してしまった行動なんだろう。
慣れた動作で軽く避け、小さく頭を下げる。
なら良かった、あと数日は人の身に慣れることを優先してくださいねと言い残し、広間も後にした。

「主、俺ら……というか多分、誰かに触られるのあんま好きじゃないみたいだから、そういうことしない方がいいよ」
「主さんの機嫌が良い時は、逆に撫でてくれることもあるんですけどね。撫でられたり抱き付かれたり、そういうのはダメみたい」
「逆に俺は、主の機嫌が悪い時の方が、髪の手入れとか色々してもらえるけどね――」

そんな声を背後に聞きながら、口にしなくても避けていれば察してくれるのだから、ここは本当に気楽な世界だなと胸の内で考えた。


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