諍縁1 [6/27]


二日間の全休も終わり、久しぶりに通常運行となった本丸の中、私と蜂須賀は珍しく手を取り合いながら喜びの声をあげていた。
検非違使調査によって練度が上がり、正式に一軍として編成の決まった六振。歌仙兼定、大倶利伽羅、厚藤四郎、堀川国広、三日月宗近、蛍丸。彼らが墨俣と同じく検非違使の現れた厚樫山で、浦島虎徹を見つけてきたのだ。

「さあ主、早く顕現を」
「顕現も結構疲れるからそう急かすなって。やる、やりますすぐやるから!」

その時に部隊長だった大倶利伽羅から浦島を受け取り、霊力を込めて名を呼ぶ。はらりと桜が舞い散る中顕現した浦島の口上を聞き、よろしくと手を差し伸べるより早く蜂須賀が浦島の手を取った。
こんなテンションの子だと認識はしていなかったんだが、よほど浦島と会えたのが嬉しいらしい。

「さて、これでもう検非違使に用はないね。厚樫山には必然的に出陣しなくてはならないけれど、出てきたときには撤退も視野に入れよう」
「いやいや、まだ長曽祢がいるから」
「……やはり、それも求めるのかい……?」
「入手刀剣多い方が、給料も上がるしねえ……」

不服そうに項垂れる蜂須賀に、浦島はきょとんと首を傾げている。溌剌とした、可愛い感じの脇差だ。暫くは本丸内で人の身に慣れてもらうことになるけれど、その内三軍か四軍辺りに組み込んでもいいかなと感じた。



 *



蜂須賀虎徹、浦島虎徹、長曽祢虎徹の三振が現在顕現出来る虎徹派の刀剣なのだが、新撰組局長近藤勇の使用していた長曽祢虎徹は、実のところ贋作であったらしい。
つまりこの顕現できる長曽祢虎徹は、正確には虎徹の刀剣ではない。蜂須賀の言うところの不届きもの、あんな奴、兄でも何でもない、そんな存在だそうで。
蜂須賀が話題に挙げる刀は浦島と長曽祢の二振が多かったから、必然的に、いずれそれらが顕現出来るようになったらどうするか、どう思うか。そんな話をすることがちらほらあった。

人間で言う兄弟のような関係の刀剣は、私が思っていたよりも多い。
粟田口なんかは特に、一期をいち兄と呼んで慕っているし、薬研や一期なんかは他の短刀たちを弟として面倒を見たり可愛がったりしている。左文字も似たような感じだ。江雪と宗三は小夜を気にしている素振りが多い。表だって可愛がっている、というわけではないが。
国広の刀である堀川、切国、山伏も時折三振で固まっていることがあるし、堀川や山伏はそれとなく切国を気にかけているように見える。
同じ刀派であれば、それなりに親近感も湧くのだろう。他の本丸を見る限り、うちの本丸はやや淡白寄りではあるが、それでもこの仲の良さだ。

それを日頃から眺めている蜂須賀も、弟のような存在である浦島に、きっと早く会いたかったんだろう。それが思いの外早く叶って、良かったと思う。
ただ問題は、その贋作である長曽祢虎徹だ。政府からの情報を見る限りは使いやすそうで、ちなみにナリも割と好みな刀剣男士なんだが、本丸内がぎすぎすするかもしれないことを考えると、めちゃくちゃ欲しい、とまでは思えない。

蜂須賀は浦島を弟として可愛がり、長曽祢に対しては虎徹を名乗る不届きものと感じている。しかし反面、長曽祢の実力は評価しているようだ。ここら辺がめんどいポイント一である。
対して浦島は軽く話してみたところ、兄弟がいっぱいいるのは良いこと、贋作がどうとかどうでもいいよね、というスタンスのようで。めんどいポイント二だ。意見は統一して欲しかった。
そして長曽祢。彼はまだ手元にいないのでわからないが、既に入手した本丸の審神者に聞いた限り、贋作であることは認めた上で、どう働くかが重要だと話していたらしい。もっともな言葉ではあるんだが、めんどいポイント三だ。それならば他人のように接すればいいものを、彼はその本丸で兄のように振る舞っているそうなのだから。


数日後、久しぶりに蜂須賀と二人で茶をしばきながら、今まで色々話してきたけどさあ、と話題を振る。

「改めて、はっちーはどうしたい?長曽祢とこの本丸で一緒に過ごしたくはない?絶対に来ないで欲しい?いるだけなら構わない?いつか仲良くなりたい?視界にすらいれたくない?」
「そう問われると、難しいな」

内番着の蜂須賀は女らしいような男らしいような、なんとも言えないオーラがある。豪華な着物の隣で、私は旅館の浴衣のようなものを着崩していた。
最初の頃は歌仙にも蜂須賀にも他の刀剣にも注意されたが、最近になってどうやら諦めてくれたらしい。眉を顰められはしても、注意されることはなくなった。

「長曽祢は、きっと主の気に入る戦力になるだろうと思うよ。彼の新撰組局長が、偽物と分からぬままに用いて、その刃の素晴らしさを讃えていたんだ。刀としては申し分ない戦力だろう。その実力には、正直なところ、憧れる」

まだ続きがあるようだったので、相槌だけを打つ。
蜂須賀は手元の湯呑みを盆の上に戻し、開けた障子の向こう側、庭へと視線をやった。

「それでも俺には、真作の誇りがある。贋作と同じだと、ましてや劣っているなどとは思われたくない。贋作とは違うんだ、本物の切れ味は。だから偽物なのに、虎徹の名を騙る長曽祢を、赦すことは出来ない」
「つまり?」
「もし主が長曽祢を入手したとしても、俺はそれを喜べないし、あんな奴と仲良くするなんて、以ての外だ。それでも、戦力としてこの本丸に必要であるのなら、此処に居ることは構わない。俺や浦島に関わらないのであれば」

ううん……とついつい唸ってしまう。一応虎徹派の刀剣の中で一番付き合いが長いのは蜂須賀なのだし、私個人が納得ないし同感できるのも、蜂須賀の意見だ。
兄弟だからって仲良くする必要はないし、そりが合わないのなら距離を置けばいい。
蜂須賀はこの態度なのだから、わざわざ長曽祢に食ってかかるようなこともしないだろう。長曽祢に関しても、なるべく蜂須賀に関わらないよう予め伝えておけば、一応主の命なのだから聞いてくれるはず。
問題は、そう、蜂須賀と長曽祢を仲良くしたがっている、浦島となってしまう。

ここで(虎徹兄弟めんどくせえ……)と心の底から思ってしまうから私は駄目な審神者なのだが、今のところそれ以外の感想が浮かばないのだから仕方ない。

何も浦島が悪いわけじゃない。長男と次男が仲悪かったら、三男はそりゃあ仲良くしてよー!と思うだろう。なんてったってそんなの、己の居心地も悪い。
長曽祢がこの本丸の来れば、可哀想なのは浦島だ。蜂須賀とも仲良くしたい、長曽祢とも仲良くしたい。けれど仲の良くない二振共と仲良くしていれば、まるで自分がコウモリになったような気分になるだろう。寝返りをしているわけではないが。

「……まあ、入手率低いっぽいし、今のところは杞憂というか、机上の空論というか……あんま話す意味のないことなんだけど……」
「それでも主なら、近いうちに入手するだろうと思うよ。何と言っても、半年程で全刀剣を揃えた審神者だからね」
「ううん……。とりあえずは、はっちーが過ごしやすいように考えておくよ。この問題に関しては一応、君側の意見が理解出来るし。浦島を板挟みにさせないようにする方が大事かなとも思うけどね」
「ああ、そうだね。浦島は優しい子だから、きっと苦労させてしまう」

少しの間をあけて同時に溜息を吐き、なんとなくの流れでそのまま解散となった。
まさかその三日後に、二軍が長曽祢虎徹を拾ってくるとは思わなかったが。


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