終始3 [4/27]


大広間には四十一振の刀剣男士が揃っている。現時点で顕現できる全ての刀剣男士から、蜻蛉切を引いた数。
こう一同に揃うと圧巻と言う他なく、毎回少し緊張する。
上座に腰を下ろして彼らを見据え、小さく深呼吸をした。手元には数枚の紙。まだ確定情報ではないが、幾つもの本丸から得た情報をまとめたものだ。信憑性は高い。

「一週間前に第一部隊が戦闘した、青い炎を纏った未知の敵。これを政府は、検非違使と名付けました。手入れ後に君たちが報告してくれた通り、アレは刀剣男士だけでなく遡行軍をも敵としている。時の流れはあるがままにすべき、という意思か使命か、そういったものが組み込まれているんでしょう。
 この本丸では最高練度である七十一の蛍丸でさえ、致命傷を与えられなかった敵。他の本丸でも重傷刀剣が相次ぎ、刀剣破壊と至ってしまった例も少なくない。けれど、重傷どころか中傷すら出さず、検非違使を退けることの出来た本丸も存在します」

瞬間、大広間内がざわめく。
特に歯噛みしている蛍丸は、俺の練度がもっと高ければ、とでも考えているのだろうか。だとしたら、その考えは間違いだ。むしろ、蛍丸の練度がもっと低ければ。あるいは、蜻蛉切たちの練度がもっと高ければ。あの事態は防げ――……おっと、この思考はいけない。

一つ咳払いをすれば、大広間は再び静寂に戻る。ぱし、と手元の紙を中指の関節で叩いた。

「他本丸の報告を見る限り、検非違使被害が少なかった本丸の部隊は、おおよそ練度が揃っていました。中には特が付く前にも関わらず、重傷までには至らなかった本丸も存在します。
 ここからは推測でしかないけれど……恐らく検非違使は、部隊内で最も練度の高い刀剣男士に合わせ、部隊を編成している。詳細は今後調査するしかありませんが、一週間前の検非違使は、七十一という練度の敵部隊を想定していたのでは?そう考えれば、三十二になったばかりの蜻蛉切が敵わなかったのも頷けます。勿論敵も勝つつもりで来たでしょうから――七十一の刀剣男士を相手取るなら、最低でも八十まで程の練度で揃えてきたはず。それならば、蛍丸が敵わなかったことにも頷けます」

全部推測でしかないですけど、と付け足す。
これらは私が導き出したものだけど、政府だって馬鹿じゃない。報告してみたところ政府側もおおよそ同じ見解で、確証を得るための調査も加えて依頼してきた。明日までには二部隊分のお守りや、手入れ用の資材が政府から届けられるだろう。

「さて、ここまでが推測。ここからは、これからどうするか、です。政府は当本丸に、検非違使調査の依頼をしてきました。そして、これを私は受けました。出陣は政府からの物資が届き次第……そうですね、明日からとなりますが、君たちにはなるべく数多く検非違使の相手をしてもらうつもりです」

出陣先は、一週間前に検非違使と遭遇した墨俣。部隊を入れ替えつつ検非違使と交戦し、検証を重ねていく。
勿論これは他本丸も並行して進めていくものだ。報告数は多ければ多いほど良い。
その結果、先の推測が事実となれば、検非違使なんて敵ではなくなる。あとはこちらの独壇場だ。

「負けっ放しだなんて、不愉快でしょう?私の刀は弱くなんてない。脆くもない。やられたのならきっちりやり返せばいい。検非違使とやら、これもまあどうせ遡行軍と同じで、倒してもキリがないんだろうけど……それでも損害は損害だ。出会った奴片っ端から叩き折れ」
「主、口調」
「これは失礼しました歌仙様」

こういう風に全員へ向けて説明なり何なりする時は、なるべく主ぶろうと思っているんだが。
注意をしてきた歌仙に早口棒読みで謝罪をし、とりあえずの方針はこんなところですかねと締める。
そうして、あともう一つ、と一振の刀剣男士へ視線を向けた。彼はまさか自分へ向けられると思ってなかったのか、瞬きを一つする。

「蜂須賀、おいで」

現状どの軍にも所属していない蜂須賀は、私から随分離れた位置に座している。手招きをすれば不思議そうに前へと出てきて、最前列、歌仙と大倶利伽羅の一歩後ろに膝をついた。
何かな、と問いかけられながら、何枚目かの紙を捲る。

「検非違使相手に勝利を収めた本丸が、まだ公には顕現出来ないとされていた刀剣を見つけたそうでね。その本丸は幾つかあるんだけど、そのどれもが、検非違使から入手したと報告していた。まあつまるとこのドロップ刀剣ね」
「それが……一体俺に、どう関係が?」
「浦島虎徹と長曽祢虎徹。長曽祢はまあ置いといて、君の兄弟刀だったはずだ。確か浦島虎徹には会いたがっていたでしょう?この二振は、検非違使からのみ入手出来る可能性が高い。政府側もびっくりだったみたいで――……はっちー?」

思わず常通りの呼び名で呼んでしまうほどに、蜂須賀は固まっていた。もうちょっとこう、会える可能性に喜ぶとか、検非違使が捕まえているような状況に憤るとか、そういう反応があると思ったんだが。
もう一度、今度は「蜂須賀?」と呼びかける。そこでようやく我に返ったのか、蜂須賀は繰り返し何度も瞬きをして、じっくりと、私の言葉を飲み込んだ。

「そう……そうか、浦島が……。すぐに戦力となって、迎えに行きたいところだけど……今は難しいからね。その情報だけでも、俺には有難いものだよ」
「最優先は検非違使対策の検証となるけど、勝率が上がれば浦島や長曽祢を求めて検非違使と戦闘することも出来るようになる。運が良ければ、検証段階で落ちる可能性もあるしね。一つでも良い情報があって良かった」

少しだけ微笑み、これで今度こそ話は終わりだと告げる。
部隊編成の詳細は大倶利伽羅に伝えてある。戦場に関しては、私よりも彼らの方が余程上手だ。中途半端に関わるよりは、さくっと丸投げしといた方が早い。


「なあ主、その検非違使とやら、大包平は持っていないのか?」
「あっもしかしたら貞ちゃんも持ってるかも!」
「そこら辺は報告に無いから知らねえよ」
「主、口調」
「ウィッス」

真面目な話も終わって緩やかな雰囲気となった広間に、ちょっとだけ唇を噛む。
髪を結わえた紫の布。本来の持ち主は、もうどこにも居ないんだ。そんな分かりきっていたことを、改めてぶつけられたような気がした。


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