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現世はきっとクリスマスイブで盛り上がっているだろう十二月二十四日の、十六時二十九分。この時をもって、一軍所属の六振全てが練度上限に達した。
遠征部隊の帰還を待ちつつ、カンスト祝いの宴会準備を進める。私も珍しくストレス発散以外の理由で甘味をせっせと拵え、光忠を中心に数振の刀剣たちが夕食やつまみの調理を、堀川と次郎を中心とした数振が酒の用意をと奔走している。台所は随分と慌ただしくなっていた。他の刀剣たちも大広間でなにやら準備をしているらしい。
主賓となる一軍の六振、歌仙、大倶利伽羅、三日月、堀川、厚、蛍丸は、今は手入れを終えて風呂にでも入っている頃だろう。

長いようで、あっという間だった。四月に審神者となって、秋に一軍が確定し、今日、六振全員が育ちきった。
半年くらい……半年以上かな、歌仙と大倶利伽羅は一軍近侍として、この本丸のために動いてくれていたんだ。しばらくは隠居生活を楽しんでもらうかな、と考えながらわらび餅を切りそろえていたところで――はたと気が付いた。

あれ、私、歌仙たちに近侍替えの話、してない気がする。

手を止めたまま明後日の方向へ視線を向け、記憶を探る。自分の中では結構前から決めてたから、話したつもりだったんだが……うん、言ってないな、多分。
食器棚から大皿を一気に取り出していた獅子王がそんな私に気付き、首をかしげる。

「どうしたんだ?主。わらび餅、失敗でもしたのか?」
「いや、わらび餅はここ数年の中でも会心の出来なんだけど……」

歌仙も大倶利伽羅も、基本的には大人だし、物わかりもいい。私がどういう人間なのかも、この本丸で最も理解していると言っていいだろう。多分、三日月に次いで、となるかもだけど。
ただ、あの二振は本当に、本当に変なとこで頑固かつ聞き分けが悪いのだ。蜻蛉切が折れてしまってからの数ヶ月、私が彼らに本心を見せなかったことで、溜まったストレスもあるだろう。
その上に、これだ。近侍替えの話なんて今振ろうものなら、ブチギレ待ったなしである。相談もせず勝手に決めて、と言われるのが目に見えている。
ここで出てくる感情が、めんどくせえ……なのは常通りなのだけど、いかんせん今回は普通に言い忘れていた私が悪い。まあ虎徹兄弟のことを除けば大体の問題が私の責任なんだが、そこはそれ、棚にヨイショだ。

「ねえ獅子王、今後の近侍について、どう思う?」

大皿をテーブルに置き、わらび餅のつまみ食いをしようとしていた獅子王がきょとんとする。
「どう思うも何も」と前置きをして、そのままの表情で、当然のように答えた。

「歌仙と大倶利伽羅が、そのまま続けるんじゃねーの?」
「……秋田は?」

ちょうど私の足下で、鍋だかフライパンだかを取り出そうとしていた秋田に話を振る。秋田は耳が良いからちゃんと聞いてたんだろう、何の話題か問い返すこともなく、こくりと頷いた。

「僕も、獅子王さんと同じように考えてました。そうじゃないんですか?」
「あー……そう……」

サンプルが少なすぎるのはわかっているが、二軍の獅子王と今のところどこにも属していない秋田が同意見なのだから、同じように考えている刀剣は他にもいるだろう。
ちょっとばかし頭痛がしてくる。頭が頭痛で痛い。

近侍替えは、決定事項だ。それを覆すつもりはない。一軍から二振、一軍がカンストすれば二軍から二振、二軍がカンストすれば――とどんどん代替わりさせていく。
二軍にも部隊長と副部隊長という立場は与えているし、三軍もまだ正式な通達はしていないが、薬研と切国には話をしている。
だから近侍も代替わりしていくのだろうと、部隊長と副部隊長が近侍になるんだろうと、言わずとも理解してくれるはず。そう思っていたのは、私の落ち度だ。察してる子は察してるかもしれないが、それでも私が言ったことはないはずだから確証はないだろうし。あらかじめ言っておくべきだったなあこれ……いつものことだけど……。

「まさか、近侍を替えるつもりなのかい?」

少し離れたところで盛り付けをしていた光忠が、驚いたように顔を上げる。肯定も否定もしないまま顔を向ければ、あちゃあと言いたげに顔を顰められた。

「それ、歌仙くんと大倶利伽羅には……」
「言ってなかったから今の私はこんな顔をしてるんだよ……」
「主さんってそういうの多いよね」
「その感想は今の私によく刺さる」

本人的には些事なんだけど、周りにとっては大事というかさあ。そう続ける乱に、なんとも言えない表情のまま肩を竦めるしかなかった。いやはや、どうしたもんか。
さっさと話した方がいいのはわかってんだけど、今日は宴会だ。水を差すようなことにはなりたくない。一軍もみんな、楽しみにしているだろうし。
となると宴会が終わってからか、いや明日の朝の方がいいか。とりあえず手を止めたままだったわらび餅を切り終え、冷蔵庫に突っ込む。
これで私の作業は終了だ。まだ細々としたものはあるが、それはデザートを出す頃にやった方がいい。

じゃあいったん離れに戻るわ、と台所を出ようとした私を、光忠が引き留めた。

「もうそろそろ湯殿からあがる頃だろうから、先に歌仙くんと大倶利伽羅に話しておいた方がいいと思うな。理由が何であれ、近侍から降ろされるって、僕たちにはショックなことだから」
「それならなおさら、明日とかの方がよくない?」
「早いに越したことはないよ。必要なら夕食の時間も遅らせていいから」

いまいち腑に落ちなかったが、他の面々も重々しく頷くもんだから「わかった」と返答し、台所を後にする。
近侍なんざただ雑用が増えるだけの役職だろうに、そんなに重要なもんなんだろうか。余所には週ごとにローテ組んでる本丸もあるぞ。そう思いはするが、ここの刀剣たちがああいう反応を見せるんだから、重要なんだろう。
以前に出した例えで言えば、部のキャプテンみたいなもんか。そう考えれば部員側が重要視するのも、なんとなく当然のように思えた。


 
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