朝食は物吉くんが持ってきてくれ、私は寝ぼけ眼を無理矢理引っ張り上げたような顔でそれを食べてから、一通りの日課をこなした。
午後の出陣は早めに切り上げ、申し訳ないと思いながらも、出陣遠征についての書類をまとめている内に寝落ちてしまう。夢も見ずに熟睡していたのは、一時間程だろうか。

ふと目を覚ませば私は畳に寝転んでいて、お腹には白い布。挟むように左右で寝転がり、微かな寝息を立てる国広と物吉くん。縁側では柱を背もたれに、日本号がお猪口を傾けていた。

「……昼間からお酒?」

寝ぼけた声のままに、小さく笑ってみせる。日本号は徳利を揺らし「あんたも飲むか?」と眼を細めた。
首を左右に一度だけ振り、開け放たれた障子の向こうに広がる空を見上げる。昼間、と先に言ったものの、日は幾らか傾いていた。三時か、四時くらいだろうか。

「夢は見たか」
「ううん。……ああいや、起きる直前にはちょっとだけ見たけど、ぐっすり眠れたよ。ありがとう、起こさないでくれて」
「起こさなかったっつうよりは起きなかったんだが……まあ、眠れたのならいい」

わかってはいたけれど、彼らなりに心配をしてくれていたらしい。
勢いよくお猪口の中身を飲み干す彼にもう一度笑みを向けてから、左右の二人の頭を撫でた。国広は顔を顰め、物吉くんは頬を緩める。雰囲気は似ているのに、本当に反応が違う二人だ。

私のお腹にかけられていたのは国広の被っている布だったようで、そっと立ち上がってからそれを二人にかけ直す。起きる気配の無い二人に、また、笑みが漏れた。

「今度はどんな夢を見たんだ?」

執務室の隅にある冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注ぐ。そのまま日本号の隣に腰を下ろせば、どうでもよさそうな顔で問いかけられた。
多分、わざとそういう表情をしてみせているだけで、実際はやっぱり、心配をしてくれているのだろう。
寝付きも寝起きも良い私が、昼間に寝落ちてしまうほどの眠気をもっている事なんて、そう滅多に無い。

「普通の夢だったよ。端末が壊れて、データどうしようってなる夢。ちょっと焦ったけどね」
「……そうかい。夢で良かったな、そりゃあ」
「本当。実際はバックアップとってるから大丈夫だけど、急に壊れたら夢でも焦るわ」

昼寝の間に見た夢には、長曽祢さんの姿なんてまったくなかった。
慌てる私を博多と物吉くんが宥めてくれる夢。途中で、データなんてどうにでもなるだろうと楽観的な意見を述べてくれたのが、小学生の時の担任だったのは少し笑えた。顔なんてすっかり忘れてるものと思っていたのに、存外覚えているものだ。

冷えた麦茶をゆっくりと飲み、自分の頭が冴えていくのを感じる。寝不足になっている時の、ぼんやりと薄い膜がかかったような感覚も、頭部に感じる緩やかな重みも無い。
あとは軽く身体を動かしていれば、夜はぐっすり眠れるだろう。
今日の内番が手合わせの刀剣たちに、少し混ぜてもらおうか。それとも、短刀たちと久しぶりに色鬼でもしようか。
そこまで思考して、ああでも、と考え直す。
今日の手合わせは長曽祢さんと御手杵だったはずだ。短刀たちも、朝方出陣したばかりの子が多いから、遊びに付き合わせるのも悪い。

「万屋にでも行こうかな」

ちょっと歩くだけでも、多少は運動になるだろう。
確か切れかけの調味料が幾つかあったはずだし、昨日の書類を手伝ってくれた刀剣たちにもお礼を買わなければいけない。長谷部は遠慮するだろうから、先に買ったもの勝ちだ。

「なら、こいつら起こすか」

よっこいせ、とおじさんくさく立ち上がる日本号に少し笑ってから、私も立ち上がって国広と物吉くんを静かに起こす。
「よく眠れたか」「よく眠れましたか?」と瞼を擦りながら問いかけてくれた二人は、なんだかんだ、似たもの同士のようだった。

「二人が添い寝してくれたから、ぐっすり眠れたよ」

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