寝坊をした私が「んんおあああ……」と変な唸り声をあげるところを見る羽目になった日本号には、割と申し訳ないことをしたなと思う。

鳴り響く目覚ましを八割寝たまま器用に止め、日本号が起こしに入ってきても起きる気配を見せず、ようやく目を覚ましたと思えば奇妙な唸り声をあげる。
私が日本号だったら近侍を降りると言ってしまうところだ。そう考えると、着替えと化粧水セットに顔を拭くタオルまで持ってきてくれる日本号が神様に見える。……元から神様か。

「生白い顔してんなあ……まぁた夢でも見たのか。病人みてえな面してる癖に、機嫌だけ良さそうで気味悪いことになってるぞ」
「えっそんな顔色悪い?……うわ色がない」

手渡された鏡に映る私は、いかにも寝不足ですといった顔をしていた。これは後で昼寝をした方がいいかもしれない。

「んで?」
「ん?ああ……うんまあ……」

夢のことを訊かれてるのだろうと判断し、曖昧に頷く。さすがに日本号相手とは言え、なでなでしてもらった後になでなでし返してその後ちゅーされそうになったけどちゅーはしなくてでもぎゅうはしました!てへ!……みたいな夢の内容を話す気にはならない。
ていうかこんな夢の内容誰にも言えない。恥ずかしくて死ぬ。まだ手の甲に唇の感触残ってる気さえするから顔熱いのに。
……顔熱いのに、何でこんな顔色悪いのか……。血液どこにいってるんだろう。

「末席とは言え、俺たちも神だからな。夢だからって油断すんなよ、かっ攫われるかもしんねぇぞ」
「神様こわ……。でも、仮に神様パワーが働いてるとして、夢に出てくるってもうどうしようもなくない?」
「無視するんだよ、常套だろ」

言われて、それもそうかと思いはしたが……すぐに無理だなと悟った。それを日本号も察したんだろう、「あんたにはちぃと難しいかもしれんが」と続ける。理解が早くて何より。

というか、長曽祢さん本人が何かをしている、とは私にはあまり考えられなかった。
なるべく扱いに差をつけないように過ごしているとはいえ、所属する部隊や近侍か否かによって接する機会は変わる。
長曽祢さんは最近は出陣の多い第三部隊。近侍の経験も無い。最近は練度も上がったことから手入れ部屋に入る機会も少ない。食事時と朝晩の挨拶、出陣前後、内番中の雑談程度にしか接点は無いのだ、悲しいことに。

恋愛経験がそれなりにあるから、わかる。好きな人が自分を好きになるなんて、とても稀なことで、そうそう起こり得ないことだと。
好意の返報性というものがあったとしても、私がそこまで解りやすい好意を彼に向けていたつもりはない。
つまり、長曽祢さんが私を好いているだとか、夢の中でどうこうしようとしているだとか、そういうことは有り得ないのだ。だって私を好きになるような機会が無いんだもの、悲しいことに。
恋愛禁止の現状を考えれば、喜ばしいことなのかもしれないけれど。

「……ま、注意はしとけよ」
「留意しときます」
「とりあえず朝飯はこっちに持って来させる。物吉か……長谷部辺りが請け負うだろうよ。それまでに身なりを整えときな」
「うん。ありがとう、日本号」

昨日と同じく、後ろ手に手を振る日本号を見送る。
一人になったことで気が抜けたのか、大きなあくびが出た。心なしか全身がだるい、気もする。何よりも眠い。審神者になってからこんなにも眠い朝は、本当に久しぶりだ。

「今夜は熟睡したいなあ……」

夢を見るのも勿論幸せだし、何度だってあの夢の世界に行きたいとすら思う。

だけど私は審神者で、現実のこの世界で戦争を行うのが仕事だ。刀剣男士の命を任され、この戦争の心臓として、人間のまま生きて死ぬのが、私の仕事。
私が私の欲のために、夢の世界に行ってしまったら、この本丸に生きる私の刀たちはどうなる?……考えたくもない。
夢は夢のまま、現実は現実のまま。幸せすぎる夢は、時々見られるくらいが、丁度良いと思う。
夢の所為で現実が疎かになったら、元も子もないしね。

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