「おれが、待つと言ったなら、あんたはおれのものになってくれるのか」
「あなたがそれを望むのでしたら、業務に差し支えない範囲で」
「……本当に、現のあんたは一層、儘ならんな」

どうにか振り絞ったような声で、長曽祢さんは呟く。
その言葉に対しては、苦笑するしかなかった。

夢の中だと思っていた頃の私は、ある意味本能的で、自分の求める範囲で長曽祢さんと接していた。だから長曽祢さんにとっては、したいことをすぐに出来ない、ままならない存在だった。
現実の私はきっと、とても理性的だ。自分のしたいことよりも、誰かのしたいことよりも、この本丸で成すべきことを優先させている。長曽祢さんにとっては夢の中の私よりもよっぽど、扱いづらいだろう。
やっぱり、苦笑するしかない。
ごめんなさい、長曽祢さん。まだ二ヶ月ちょっとじゃわからないかもしれないけど、こう見えて私、真面目な仕事人間なんです。書類整理が苦手なだけで。

「待つって即答出来ねぇんなら、やめちまえ。解かされた方がよっぽど楽だ」

ずっと黙りだった日本号が、投げやりに告げながら私の隣にどっかと座る。
そんな挑発的な行動しなくても、と微かに溜息をつけば、それよりも大きくてあからさまな溜息を、国広と物吉くんが吐いていた。
挑発をされた長曽祢さんは、じろりと何を考えているのか読み取りづらい目で、日本号を睨めつける。

「誰も待たないとは言ってないだろう。解かされるつもりもない」
「即答出来ねえ時点で問題だ。そんな臆病者に、俺の主を渡したくはねぇなあ」
「何だと……」
「呼んだのは私だけど、ちょっと日本号、下がってて。喧嘩なら後でやって」

腕を引っ張れば、舌打ちをしたのは意外にも長曽祢さんの方だった。舌打ちとかするんだ、と場違いにも感動してしまう。

「さっきもあんたは言っただろう、確約は出来ないと。あんたは良い主で、良い女だ。贋作であるおれよりも、もっと釣り合う奴が此処には幾らでもいる。あんたが待てと言うなら、おれは幾らでも待とう。だが、その間に主の気持ちが離れていたら、おれはどうすればいい」

一頻り吐き出して俯いてしまった長曽祢さんに、日本号までもが唖然としている。どうしたものか。溜息を吐けば、長曽祢さんの肩がびくりと震えた。
どうせ贋作だからと言わんばかりの発言は、らしくもなくて、だからこそ余計に本音のように聞こえた。
待ちたいし待てるけど、その間に私が心変わりしたら、待ってる意味が無くなる。今すぐ私を隠せば長曽祢さんを大好きな私といられるけど、ずっと先のいつかを待っていたら、彼が隠すのはもう長曽祢さんを好いていない私かもしれない。それが怖いから、待つと即答出来ない。

長曽祢さんが俯いているのを良いことに、私はちょっとだけ笑みを滲ませてしまっていた。うっかり見ちゃった日本号が、二の腕を小突いてくる。おっと、と笑みを隠し、それでも胸は高鳴るばかりだった。
だってこれが、私が大好きになった長曽祢さんなんだもの。

「ねえ、長曽祢さん」

膝歩きで近寄り、長曽祢さんの肩に触れる。俯かせたままの顔が、こちらを向くことはない。
もしかしたら恥ずかしく思っているんだろうか。だとしたら、夢だと思っていたあの時とは逆だ。

「心変わりなんてしないと、私はずっと長曽祢さんだけを大好きでいますと、確約出来たらいいんですけど。私には、未来の自分が解りません。人にもよりますけど、心は移ろいやすいものです。だから私は、あなたを安心させることが出来ません」

ごめんなさい、と静かに告げる。ゆるやかに、首を左右に振られた。

「勝手を承知で言います。長曽祢さんが待ってくれるのなら、私は私の出来うる限りで、あなたの好きな私のままでいます。だからずっと、私を好きでいてください。愛していると、行動で示してください。そうしてくれるのなら、私は何度でもあなたに恋をします。万一心が移ろう事があっても、長曽祢さんが私を愛し続けてくれるのなら、私はあなたにだけ、胸をときめかせ続けます」

そうっと、初めてのあの日のように、長曽祢さんと手を繋ぐ。
私よりもずっと大きな手。あの日と変わらない、温かな。

「待っていてくれるのなら、どうか私を、あなたに繋ぎ止めてください」

ね、長曽祢さん。
ようやく絡んだ視線に、眼を細めて微笑む。長曽祢さんは困ったような、呆れたような、そんな表情のまま繋がれた手に力を込めた。

「主にこんなことを言うのも何だが……、傲慢だな」
「豪胆なんです」

一段落、大団円となった私と長曽祢さんの後ろで、三人の刀剣男士はなんとも言えず、やれやれといった感じの笑みを滲ませていた。

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