鬱屈とした気持ちになりながら、とりあえず日本号の部屋を目指す。刀剣男士の自室は基本的に個人部屋としているのを、今ほど感謝したことはない。
完全に寝ている時間だろうけれど、緊急事態だ、許して欲しい。

そうっと襖を開け、日本号の部屋に入り込む。気配で気付いたんだろう、もぞもぞと布団が動いていた。
……私もこれくらい、気配に敏感だったらなあ……。

「どうした、こんな時間に……夜這いか?」
「夜這いだったらもうちょっと色気のある格好で来るよ」

カタカタッ、と手の中の刀が揺れる。顕現を解いても、多少なりとも意識はあるようだ。
冷静に分析する私の前で、日本号は目を丸くしていた。

「それ……長曽祢か」

その問いにはあっさり頷いて返し、布団の上に胡座をかいた日本号の正面に正座する。
ざっと事の顛末を告げ、必要だったので仕方なくヤったことも伝えれば、日本号の顔がわかりやすく顰められた。神様と交わることがどういう事かは、神様自身が一番よくわかっている。

「んで、どうするんだ。長曽祢は刀解か」
「さすがにそれは、無いかな」
「じゃあ、あんたが審神者を辞めるのか」
「政府にバレたら、少なくともこの本丸からは離されるだろうね」

目を伏せる。
カタ、カタ、と刀の揺れは止まらない。ある種の怪談のようだ。

「……どうすんだ」
「とりあえず、此処に来る道すがら考えてみたんだけど」

肩を竦め、相変わらず揺れ続ける刀をそっと撫でる。一度だけ大きく揺れて、すぐに大人しくなった。

刀剣男士と交われば、審神者の神気は大きく乱れる。良い方向に乱れるか、悪い方向に乱れるかはその時にならないとわからない。体調面や思考面に大きな変化が見られないことを考えると、とりあえず今回は悪い方向にはいかなかったんだろう。
けれど、私の中には確かに長曽祢さんの神気が交じっている。
性行為は最も効率良く、多くの神気を与えられるものだそうだ。血を交わらせたり飲ませたりする方が量は多いのだけど、副作用も多い。

じゃあ審神者の中に、ある刀剣男士の神気が多く入っていたら、どうなるのか。
神隠しをしやすくなる。条件が整えば、真名を奪うことも容易となる。場合によっては、審神者はその刀剣男士から離れがたくなる。
つまり、審神者としての業務が行えない可能性が出てくる。

なら、どうすればいいのか。
審神者として生きてきた今までの知識を総動員して、長曽祢さんを刀解させず、政府にもバレず、私が審神者としてこれからも生きていくための方法を考えた。
そんな思考の、結果は。

「あとで国広と物吉くん……堀川くんと博多にもかな、頼む予定なんだけど。――日本号、ちょっとだけ神気ちょうだい」
「…………は?」

兎にも角にも最優先すべきは、政府にバレないようにすることだ。
そう結論付けた私は、まずこの身体の中にある神気をぼかす必要があると考えた。長曽祢さんに触れなければ、神気は次第に薄まっていく。けれど、来週には定期検診がある。
時間経過で薄めることが出来ないのなら、他のものを混ぜて薄めればいい。浅知恵判断だが、他に出来ることもない。

だから私は、日本号たちの神気を必要とした。
一滴分の血液でも、神気の量は充分にある。それを接点が多く信頼もおける日本号たちに貰い、取り込めば。とりあえずの検査は凌げるだろう。
侵食度では引っかかるだろうが、誰の神気かの特定は審神者自身に判断が任される。特定はせず、注意を受け、神気を薄める薬を受け取ればそれで終わりだ。

政府をやり過ごせば、後は私と長曽祢さんの問題になる。これは、本丸の中でどうとでも出来る。

「……と、いうわけで」
「俺や物吉たちが、あんたを隠しやすくもなるんだが?」
「別に隠すのはいいのよ、長曽祢さんでも、みんなでも」

ざっと説明を終えれば解りきったことを返されたので、あっけらかんとこちらも返す。と、日本号の眉間に皺が寄った。傍らの刀も揺れた。

「まあそこら辺の話は後で。これでも審神者歴十年なんだよ、全刀剣を揃えているトップランカー優良本丸の審神者として。揃ったのは割と最近だけど」

蜂須賀さんを除く虎徹兄弟には随分と手こずらされたからなあ、と心の中でぼやき、笑う。

「私は自分の刀を、良くも悪くも信用してるんだよ。相手くらい選ぶ」
「……聞いたら、長谷部が泣くぞ」
「内緒にしてね」

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