僕たちの青春 



サンドイッチだけで栄養が取れると思っているのか、と言いながらあたしの口に焼き鮭を無理矢理突っ込んでくる赤司。
まだ口ん中サンドイッチ残ってるんですけどと思いながらも有無を言わさぬ目線に大人しく咀嚼すれば、マヨネーズとシーチキンときゅうりと焼き鮭の混ざった、複雑な味が口内に広がった。

誰かお茶ください。


屋上の片隅に円を描いて座る、6人の男とあたし、そして1人の女の子。
赤、紫、緑、青、黄、水色、ピンク。こんな派手な髪色の集団の中、1人混ざる焦げ茶色の髪はひどく異様に思えた。
実際はあたしが普通で、周囲が異常なのだと思うが。

「かえで、俺はいつもちゃんと言っていたはずだ。しっかり栄養バランスの整った弁当を作って来いと」
「赤司くんと弁当食べると小言ばっか言ってくるから嫌だったんだ」
「ほう…俺に逆らうのはこの口か…」

鈍く光る赤司の瞳。その手にはほうれん草のおひたし。
ちょっと待ってあたしの口には今コーヒー牛乳が、と慌ててそれを飲み込むが即座に口内に突っ込まれたほうれん草のおひたしは先ほどの焼き鮭と同じく、ひどく複雑な味がした。

赤司との付き合いは、小学校にあがった時からだ。
幼馴染というには短く、知り合いというには少し長い、けれど決して友達という関係でもましてや恋仲などでもない。
あたしの口の中で混ざり混ざった、コーヒー牛乳とほうれん草のおひたしが織り成す味のように、複雑な関係なのだ。
仲が悪い、というわけではないのだけど。

彼の中の何に触れてしまったのかはわからないが、赤司はあたしの生活をひどく気にかけている。
ご飯をまともに食べていなければ無理矢理口に突っ込んでくるし、嫌いな食べ物があろうものなら意地でも矯正された。睡眠不足になっていた時は謎の子守唄を熱唱されたし、一時期やや体重が平均値を上回りかけた時には赤司オリジナルダイエットメニューを用意された。
お前はあたしのマネージャーか親かなんかか、と思った日も少なくはない。というか今も思っている。

「ていうか赤司っちばっかりずるいッスよ!露木さん、俺のもあげるッス!」
「ふざけるな黄瀬、太りやすい体質のかえでにそんな菓子パンを食べさせるなんて言語道断だぞ」
「太りやすいとか言わないでよ」

ずいっと正面にいる黄瀬から、ホイップのたっぷり乗った菓子パンを差し出される。甘い匂いが鼻をくすぐった。
美味しそうだしとありがたく受け取る前に黄瀬のその手は赤司によってはたかれ、あたしの目の前からパンの姿が消える。
プラスアルファ、赤司の口から吐かれた言葉に心の中で軽く舌打ちをしていれば、赤司とは反対の隣に座っていた黒子がつん、とあたしの足をつついた。

顔を向ければ、箸にはさまれた卵焼きがあたしの口にぶつかる。

「あああかえでちゃん羨ましい私もテツくんにあーんしてもらいたい!!」

間髪入れず叫び声をあげた桃井にちらりと目線を向け、はたしてこれはあーんと言えるのだろうかと考えつつ黒子に目線を戻す。
無言でこてん、と首を傾げた黒子に観念の意味を込めて肩を竦め、口を開けた。
卵焼きにはねぎが混ざっていたらしい。出汁の味と合わさってそれはとても美味しかった。
今日、初めてまともに食べられた物だったかもしれない。

「ありがと、美味しい」
「いえ、喜んでいただけたのなら何よりです」
「テツくん私にも!私にもあーんして!」
「うるせえよさつき」

なによー!なんて青峰に突っ掛かりにいった桃井はもう黒子にあーんをしてもらうという目的はすっかり忘れているらしく。
ごくんと卵焼きを飲み込んで、コーヒー牛乳のストローを口に含む。

ずずず、と空気を吸う音がしただけで、パックの中身は空になっていた。



 (犯人は斜め前の紫な巨人だと思う)


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