傍観者達の独白 



「これで、良かったんですか?赤司君」
「まあ、良いだろう。黄瀬にも少しくらいの夢を見る権利はあるさ」

明かりの無い図書室は、昼間でも些か暗く感じる。
そんな中、カウンター内の席に座る僕を見下ろすように、カウンターに頬杖をついて立つ赤司くんは愉しそうに笑っていた。

「かえでさんは僕と同じ誠凛に行くそうですね。彼女はまだ僕と同じ、という事は知らないようですが」
「ああ、黒子が相変わらず姿を見せていないからね。全中以降もかえでと会ったのは二回だけだろう」
「ええ、まあ。あの二回は非常時だったので仕方なく、ですね」

とん、と溜まった資料をまとめ、端に避ける。

もう残り数カ月で、僕たちは高校生だ。
そして高校に上がれば、黄瀬君はいない。
僕とかえでさんだけの、高校生活。なんて良い響きだろうと、そう思う。

「本当は洛山に連れて行きたかったんだが、まあかえでの意思を尊重してあげるのも悪くないからね。高校生活は黒子にかえでを預けるとするよ」
「それはありがたいです」
「で、どうするんだ?黄瀬よりかは黒子の方が、俺はマシだと思うんだけど」
「マシって何ですかマシって。…僕はかえでさんに手を出しはしませんよ。黄瀬君みたいに早計な馬鹿じゃありませんから」

ほう、それは何で?と、赤司君はただ楽しそうに笑う。
僕も彼と話をするのは嫌いじゃないので、くすりと口角を上げて言葉を紡いだ。

「僕はそれこそ影のように、かえでさんの傍にずっと立ち続けるんです。いつだって離れずに、かえでさんが傷付いたら慰めて、泣いていたら涙を拭いて、笑っていたら一緒に笑って。そうやってずっとずっと一緒にいて、彼女の傍に僕がいるのが普通なんだと、そう思い込ませて行くんです。…素晴らしいと思いませんか?」

そうすればいつか、彼女は僕無しでは生きていられなくなる。
僕が姿を消すと必死に探して、ずっとずっと、僕だけのことを考えて。
今回だって、そうなりましたしね?

僕の言葉を聞いた赤司君は驚いたように小さく目を見開くと、すぐにくすくすと彼にしては珍しく、声を洩らして笑った。

「これだから俺はお前のことを気に入っているんだよ、黒子。素晴らしい考えじゃないか」
「そうでしょう?赤司君にそう言ってもらえて光栄です」
「ああ、でも一つだけ訂正しておこう」

なんですか?と顔をあげる。

それと同時にタイミング良く鳴った赤司君の携帯に、彼は一言断って通話ボタンを押した。
どうやら相手は、かえでさんらしい。
赤司君がここまで柔らかい表情を浮かべるのは、彼女を相手にした時だけだ。

数回のやり取りの後、携帯を操作し制服のポケットにしまった赤司くんは、呼びだしだと呆れたように、けど嬉しそうに呟いてカバンを肩にかけなおした。

「それで、さっきの訂正点はなんなんですか?」
「ああそうだ、忘れていた」

僕に背を向けた赤司君がわざとらしく立ち止まって振り返り、にんまりと唇を三日月形に歪め、呟く。

「かえでが帰ってくる場所は常に俺のところだ。それはいくらなんでも、黒子にだって譲れないよ」
「はあ…まあそれくらいなら。僕も一緒に赤司君のとこ行けばいい話ですし」
「そう言うだろうと思ったから、俺は黒子がかえでに近付くのを許可しているんだよ」

それじゃあ、と図書室を出て行った赤司君を見送って、ゆっくりと閉まった扉に息を吐く。


赤司君はかえでさんの幼馴染ですしね。
けれど、高校の3年間というのは思いの外長いものだったりするんですよ?
その間、僕はずっとかえでさんと一緒にいる。対して赤司君は遠く離れた京都だ。


「最後に帰るのが君のところだったとしても、その時に僕がかえでさんを離さなければいい。そう思いませんか?赤司君」


答える者などいない一人きりの図書室で呟き、僕は脚の上で開いたままにしていた本を、静かに閉じた。




 (黒い、しがらみ)



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