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次の日の日直だった子に日誌を見せてもらえば、「先生は犬飼ってるぞ!いいだろ!」という担任からのコメントがついていた。
…おちゃめな担任だと思う。嫌いではないけれど、自慢げなそのコメントに若干いらっとした。


いつも通りの授業を終え、昼休みに購買でサンドイッチを、自動販売機で紙パックのコーヒー牛乳を買う。
お昼を一緒にしている友人は軒並み弁当派だ。
あたしはいつも学校に行く途中にコンビニでお昼を買うのだけど、今日は遅刻ギリギリだったためそれが出来なかった。
購買に来るのは久しぶりだ。

「あれ、露木さん今日は購買なんスね」

購買横の自販機で紙パックにストローを指しているところで、声をかけられた。
新学期になってもうそろそろ聞き慣れてきた声、そして口調。
振り向けばにこにこと笑っている黄瀬の姿。その隣には、彼と同じバスケ部の青峰と黒子の姿があった。

「露木、今日遅刻だったもんな」
「え、HRには来てたッスよ?」
「遅刻じゃなくて、ギリギリだっただけ」

にやにやとしている青峰をやや睨み付けるように反論すれば、わりーわりーとさして悪く思っていないだろう声音で流された。
別にいいけど。

3人も購買?なんてわかりきった事を聞きはせず、じゃ、と教室に戻ろうとする。
けれどぱしりと掴まれた左腕に、あたしの歩みは妨げられた。
あたしより白いんじゃないだろうかと思う細い手が、あたしの手首を申し訳なさそうに掴んでいる。

「、なに?」

初めて会ったときから儚げな印象を抱いている、あたしの腕を掴む犯人。黒子テツヤ。
非常に影が薄いらしいけれど、あたしはこの子を人ごみから探し出すのは容易な事だと思っている。そして実際に、簡単だ。

「良かったら、僕達と一緒にお昼、食べませんか?」

かえでさん、と耳触りの良い声があたしの名前を呼ぶ。
どうにもあたしはこの子の声に弱かった。無視したら、拒否したら、このまま消えてしまうんじゃないだろうかと思うくらい儚い、黒子の声に。
彼と話すようになって1年ちょっと、その声を狙って出しているんじゃないかと最近は思うようになってきたのも、また事実なのだが。

黒子の発言に黄瀬が「良いッスね!」と同意を示し、青峰も「まあいんじゃね?」とどうでも良さそうにではあるが、同意する。
いやあたし友達が待ってるし、と黒子の手を振り払おうとしたのだが、どうやらそれなりに強い力で掴まれているらしくそれは容易なことではなかった。なんなのこの子。

仕方ないと肩を竦め、空いている手で友人に「ごめん昼、別の場所で食べるわ」とメールを送る。数分で返ってきたメールには「あんた遅いからもう食べ終わったよ」と書かれてあった。泣きたい。

「どこで食べるの」
「屋上です。赤司くん達もいますよ」
「うげ」
「そうと決まれば善は急げッス!昼休み終わっちゃうし」

先陣を切る黄瀬の後ろを青峰が歩き、その隣を歩く黒子に手を引かれあたしも後を追う。
別に手ぇ離しても逃げたりしないのに、と思いながら掴まれたままの左腕を見つめていれば、不意にあたしへと顔を向けた黒子がふわりと小さく微笑んだ。

掴んでた腕を離し、少し下にずらして、指をからめてくる。


なぜ手を繋いだんだ、この子は。



 (彼女じゃないんだからとは、言えず)


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