消えたしがらみ 



明日から冬休み。

1人、校舎を出ようと靴を履き替えていたら、後ろからぽんと肩を叩かれた。
振り返れば、そこには黄瀬の姿。
丸く見開いた目で驚きを露わにしていれば、苦笑気味に黄瀬が「久しぶり、ってのも変な感じッスね」と口にした。

「どうしたの?…急に」
「や、えっと…俺、海常に進学、決まったんス」
「…そうなんだ、おめでとう」

素直に、嬉しいと思った。
あたしは今、自然に笑えてる。

海常の名前は聞いたことある。神奈川にある、バスケの強豪校だと。
そこに黄瀬が入るんだ、きっと更に強いチームになるだろう。

「俺、あの日からずっと、いろいろ考えて…それで、」
「…うん」
「もっと俺、成長するッス。今度はかえでを疲れさせないように、かえでのこと守れるくらい、すっごいイケメンな大人の男になってみせるッス!…から、だから」
「うん」

「…待ってて、もらえないッスか」

イケメンな大人の男になってみせる!って元気に握った手を、へなへなとおろして。
不安そうにあたしを見下ろす黄瀬に、垂れた犬耳が見えたような気がして、くすっと笑ってしまった。

何で笑うんスかぁと黄瀬が怒る。
怒ってるけど、笑っている。

「ずっと、はわかんないけど。待ってるね。黄瀬くんが今よりもイケメンな、大人の男になって、あたしを迎えに来てくれるの」

その時にはあたしも、もっと、黄瀬くんを支えられるくらい、成長してみせるから。

「…俺、高校でも頑張るッス」
「うん。応援してる」
「あ、っと、今日これから撮影だったの忘れてた…っ!今何時ッスか!?」
「もうすぐ1時、かな」
「やっば…じゃ、俺行くッスね!」

慌てて靴を履き替え、ばたばたと玄関を走っていく黄瀬を笑いながら見送る。
ああ、もう、本当、見ていて飽きない、かわいい人。


「絶対!迎えに行くッスからね!ー…かえでっち!」


最後に、走りながらあたしの方へと振り向いて。
ひまわりのような黄瀬の笑顔に、あたしも笑みが漏れた。



 (白いしがらみは、赤い糸となって)


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