それは望まなかった、終幕
放課後。
赤司っちに自分の教室へ来るよう言われ、何の事だろう、かえでもいつの間にかいなくなっていたから探しに行きたいのに、メールも電話も出ないから、気になっているのに、と考えながらも。
やっぱりあの人の言葉には逆らえず、仕方なしに赤司っちのクラスへと訪れた。
そこには、俺の探し人と、赤司っちの姿。
どういうことかわけわかんなくて、へ?と間抜けな声が漏れた。
「…涼太、話が、あるの」
意を決したように俯いていた顔を上げる、かえで。
目線を彼女の顔から下にずらせば、震える手はぎゅうと握りしめられていて。脚も、震えているようだった。
まるで赤司っちになにか脅されているみたいだ。
「あたし達、別れよう」
「…は、…え?」
「別れよって、そう、言ったの」
時間が、止まって、急に息が出来なくなった気がする。
かえでの顔は真剣だ。
なんで?なんでなんで、何で。
ああそうだ、赤司っちに脅されてそんなこと言ってるんでしょ?そうだよそうにきまってるッス。だって俺とかえではちゃんとお互いのこと好きで大好きで愛し合ってるから今こうやって付き合ってんのに、別れる理由なんてなんもないでしょ?赤司っちに無理矢理言わされてるんスよねそうッスよね、もう赤司っちも冗談にも限度ってもんがあるッスよ。
って。
早口でまくしたてるように、口にすれば、目の前に立つかえではひどく落胆したように俺を見ていて。そんな彼女の後ろに立つ赤司っちに至っては、俺を軽蔑しているようにすら見えた。
「あたしは、」
「い、嫌ッス!そんなん冗談でも聞きたくない!」
「冗談じゃ、」
「かえでは俺のこと好きでしょそうッスよねなのに何でこんなこと言うんスか意味わかんないッス!俺、なんで、だって!」
「黄瀬、真面目にかえでの話を聞け」
「ごめん赤司くん、大丈夫だから」
かえでが、俺に歩み寄ってくる。
ほら、やっぱり冗談なんでしょ?だってかえではこんなにも優しそうな笑みを浮かべてるんだから。
嘘なら嘘だって、早く言って欲しいんスけど。
そういえば最近はモデルの仕事がたくさん入ったから、もしかしたらかえでを寂しがらせてしまったのかもしれない。
だからこんなこと、したんスよね?
ちゃんとメールも電話も、何回もしたのにな。
でも今度からは気をつけるから、俺は、かえでさえいてくれれば、それで。
「黄瀬くん、あたしの話を、聞いて?」
あ、れ?
何でかえで、俺の事、名前で呼んでくんないんス、か?
「あたしね、今でも黄瀬くんのこと大好きだよ。好きで、大好きで、苦しいくらい」
あ、ほら、やっぱり。
名字で俺の事呼ぶのは、理由わかんないッスけど、やっぱかえでも俺の事ちゃんと好きでいてくれてたんじゃないスか。
別れよってのはやっぱり、嘘なんスよね?
「でも、だからこそ、今の黄瀬くんを見てると、つらいの」
つらい?なにが?
俺はかえでを見ているとこんなにも幸せな気分になれるのに?
「ごめん、ごめんなさい。あたしの所為で黄瀬くん、壊れちゃったから、あたしにはどうすることも出来ない。ごめん、こんなあたしが黄瀬くんの彼女になって、ごめんね」
何でかえで、泣いてるんスか?
それに言ってること、意味わかんないッスよ。
だって俺、どこも壊れたりなんかしてないし、普通に元気でいっつも普通に笑ってたでしょ?
だからほら、かえでが泣きながら謝る必要なんて、なーんもないんスよ!
「あたしは、いっつもたくさん、ひまわりみたいに笑って、泣いて、ころころ表情の変わる黄瀬くんが好きだった。無責任でごめん、わがままでごめん。でも、今の黄瀬くんは、もう見てられない」
…俺、今もちゃんと、笑ってるッスよ?
人並みに泣いたりだってするし、好きだったって、今でもかえでは俺のこと好きでいてくれてるんスよね?
ねえ、なんで、なんでそんなに謝るんスか?
俺、もしかして、かえでにひどいこと、したッスか?
「あたしは、これ以上黄瀬くんを、疲れさせたくない」
そんな、俺、全然、疲れてなんか。
「だから、別れよう?あたしがいたら、黄瀬くんはもっと、壊れちゃう」
「…かえで、そんな、おかしいっすよ、だっておれ、かえでがいなきゃ、」
「…あたしがいなくても、黄瀬くんなら大丈夫、だよ。だって黄瀬くん、すごい人だもん。綺麗な心で、みんなを笑顔に出来る、太陽なんだから」
もういい、って。
赤司っちがかえでの肩を抱いて、教室を出ようとする。
え、ちょっと、待ってくださいッス。
唖然としてる俺を無視して、赤司っちはかえでを教室の外に出す。
ドアの向こうに黒子っちが見えた気がしたのは、目の錯覚かなにか、だろうか。
「黄瀬、かえでの話はこれで終わりだ。これがお前のしたことの招いた結果、1人でじっくり考えろ。いいな」
ぴしゃりとドアが閉められる。
独りきりになった教室で、俺の頬を、なにか生ぬるい液体が、伝った。
(疑問符だらけ)
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