誘導される結末 



首に、脚に、腕に。
無数の真っ赤な痕を見つけた赤司はただ一言、とても低い声で、「おいたが過ぎるようだな」と呟いた。


あれから数週間が経ち、暦はもう11月に入ろうとしていた。
何通ものメール、あたしが出るまで止まない着信、嫉妬からの激昂、強く掴まれる腕。
いくつもいくつも付けられる、真っ赤な所有印。

疲れ切ったあたしには、それらをどうにかしようとする気力が無かった。

疲弊しきった精神は既に限界で、でも、どうすればいいのかもわからなくて。
ぐちゃぐちゃに荒れた部屋の真ん中で膝を抱いて泣いていたら、ノックも無しにあいたドアの向こうに、赤司がいた。

その時も携帯はずっと、光り続けていた。



なんで話さなかったと。
静かに、あたしの隣に座って呟いた赤司は苛立っているように見えた。

「どうしたらいいか、わからなくて」
「俺が、頼りなかったとでも?」
「そういう、わけじゃ…」

小さく溜め息を吐いて、赤司があたしの頭をやんわりと撫でた。
視線を向ければ、呆れてるようで、でもとても、優しい表情をしている。

触れる手が温かい。
こんなに安らいだ気分になったのは、いつ振りだろう。
最近はずっと気を張っていたからか、また、涙がにじんできた。

「それで、お前はどうしたいんだ」

落ち着いてきたあたしにそう問いかける、赤司。

どうしたいかなんて、わかっていたらこんなことになっていない。
別れたい、のかもしれない。
でも今の黄瀬と、別れることが出来る気がしない。
それにやっぱり、あたしは黄瀬のことが好きで、大好きで。
また、笑ってほしいんだ。黄瀬に、ちゃんと。
でもあたしの所為で、黄瀬は笑えなくなって。あたしのせいで、黄瀬が、どんどん壊れていっちゃって。
もう、どうしたらいいか、わからない。

「わからない、よ」

「…じゃあ、かえで。お前は黄瀬に、どうしてもらいたい?」
「どう、って…」
「ゆっくりでいい。ちゃんと、考えろ」

ぽん、と優しく背中を叩かれた。
あたしは膝を抱えたままの姿勢で、言われた通り、考える。

だって、赤司の言うことは、間違ってないんだから。

「…あたしは黄瀬に、また、昔みたいに普通に笑ってもらいたい」
「なら、それはどうやったら叶うと思う」
「わかんない、けど…多分、あたしがいたら駄目、なんだと思う」
「そうか。じゃあ、それを踏まえた上で、かえではどうしたら良いか。わかるな?」

小さく、頷いた。

やっぱりあたしは、黄瀬にちゃんと自分の想いを告げた方がいい。
今、自分たちの状況をどう思っているか。黄瀬の事をどう思っているか。どうしたいのかを、わかんなくても、ちゃんと。
流されるままで過ごすのは、きっと、一番いけない。
あたしの為にも、黄瀬の為にも。

「ありがとう、征十郎」
「、…久しぶりに、名前で呼んでくれたね」

明日、学校で黄瀬に話してみるよ。
きゅっと手を握りしめてそう伝えれば、赤司は頑張れと背中を押してくれた。
その時には、俺も見守っていてやるからと。

もう一度ありがとうと呟いて、目尻にたまった涙を拭う。


満足そうに、にこりと浮かんだ、赤司の悪戯が成功した子供のような笑みには、気付かないまま。



 (全ては貴方の意のままに)


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