理解ってしまえば簡単な 



学校についたと同時に、携帯を持ってくるのを忘れたことに気が付いた。
そうだ、昨日、黄瀬からの着信があまりにも怖くて、サイレントにしたままクッションの下に置いてしまったから。

それに気が付いて、また、顔が青くなった気がした。

教室に入る。
黄瀬の姿は、無い。
じくじくと胸に広がり続ける恐怖に、どうしよう、どうしようと考え続けていたら、クラスの女子にぽんと肩を叩かれた。
顔を上げる、と、ひどい顔だよ?と苦笑される。

「ごめん、…なに?」
「や、黄瀬くんから連絡あってさ。かえでちゃんが携帯に出ないって」
「あ…携帯、家に忘れちゃって」
「そうなの?んじゃ、そう伝えとくね」
「うん…ありがとう」

そのまま席に戻っていった彼女を見送って、その時初めて自分の手が震えていたことに気が付いた。
がたんと席を立つ。
教室を出て、廊下を走りぬけて、下駄箱まで行って。

そこで少し待っていたら、息を切らした黄瀬が、あたしへと駆け寄ってきた。
土足のまま廊下にあがり、あたしをきつく抱き締める。

「っはぁ…良かった。かえでになんかあったのかと思って、家まで行っちゃったッスよ」
「ご…めんね。携帯、持ってくるの忘れちゃって」
「…今日はまあ、いいッスけど。もうこんなのやめて?俺、心配し過ぎて狂うかと思っちゃったッスから」

にこりと、微笑む。
傍目に見たら、とても綺麗な笑みなんだろう。
けど、あたしはぞくりと背筋が震えるのを感じた。

狂うかと、思ったって。

もう狂ってるよ、おかしいよ。
だってそんな、連絡しないだけで、家まで?
普通、まあ学校に行けば会えるかなとか、携帯忘れたのかなとか、そう思わない、の?
小さな子供じゃ、あるまいし。

それに、そんな心配してたって言うなら、じゃあなんで黄瀬の目はそんなに、怒ってるの?

「かえで、そんなとこでぼーっとしてないで、教室行くッスよー」
「あ、うん、ごめん」

手を引かれる。
ぎゅうと、強く、強く。

「涼太…手、痛い、よ」
「ん?ああ、ごめん。でも、こんくらいの力で掴んどかないと、かえでが逃げちゃうんじゃないかって、俺心配なんスわ」

意味がわからない。
ただ、ただ、怖い。

どうしてこうなったんだろうって、怖くて怖くて、しかたなくて。
ほんの少し考えたら、すぐわかった。
あたしの所為だ。あたしが、黄瀬を、壊した。

どうしよう、どうしたら黄瀬は、いつも通りの黄瀬に戻ってくれるの?昔の、ふにゃりと笑って、たまに泣いて、可愛かった黄瀬は、もういないの。


ああやっぱり、あたしと黄瀬は付き合うべきじゃなかったんだって。

そんなことを口にしたら、今の君はどうなってしまうんだろうね。



 (ぼろぼろの太陽)


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