壊れ始めた警鐘 



「かえで、送ってくから、ちょっとここで待ってて欲しいッス」
「あ…うん、わかっ、た」

普通に笑って、部室に戻って行った黄瀬に、違和感しか抱けなかった。
いや、でも、…どうなんだろう。
黄瀬、なりに我慢してくれているのかもしれない。あたしを気遣ってくれてる、のかもしれない。

荷物を手に部室から出てきた黄瀬と並んで、2人で帰るのは久しぶりで。
ゆるく繋がれた手をちらりと見やれば、黄瀬は照れたように小さく笑い声を洩らした。


――…

その日の、夜。
あたしは携帯を片手に、呆然としていた。


「今なにしてるんスか?」
「まさか青峰っちと連絡取ってたりなんかしないッスよね?」
「ねえ何で返事くれないんスか」
「かえで、起きてるッスよね?」
「何で電話にも出ないの?」
「何で無視するんスか?俺のこと好きッスよね?」
「ね、かえで、好きって言って欲しいッス」
「もしかしてお風呂ッスか?じゃああがったら電話して」
「ねえもう30分経ったッスよ?まだッスか?」
「俺、ずっと待ってるんスよ!」
「ねえ、かえで、何で電話出てくれないんスか」

「電話出てよ」


何通ものメール、何十件もの着信。
普通じゃない。おかしい、こんなの、絶対。

恐怖を感じながらも、電話をしない限り、黄瀬はまだまだ何回も何回も何回も、あたしにメールを送り電話をかけ続けるだろう。
さっきまで黄瀬からのメールに書いてある通り、お風呂に入っていたあたしは濡れたままの髪で、おそるおそる発信ボタンを押した。

『もしもしかえで!俺、心配したんスよ?何度かけてもかえでが出ないから、もし青峰っちとでも連絡してたらどうしようって、もう泣きそうだったんスから』
「…ご、めん。お風呂…入って、て」

携帯から聞こえてくる黄瀬の声は、いつも通りだった。
普通の、黄瀬。
だからこそ、なんでだろう…とても、怖い。

『まあそんなことより、さっきやってたテレビ見たッスか?俺ちょこっとだけど出てたんスよ!』

それから30分、くらいだろうか。
なんでもない話を、して。
ごめんそろそろ寝るねと言えば、そッスか、としょんぼりした声音で応えてくれて、通話は終了した。

普通、なんだろう。
彼女が告白されて、嫉妬と心配の入り混じった感情で、彼氏が彼女に電話をした。
なんてことない話をして、電話を切って。
普通だ、普通、なはずなのに。

電話を切って数秒で再びなった携帯を、思わず床に落としてしまった。

拾いなおして、届いたメールを確認すれば。
さあっと自分の顔から血の気が失せるのを感じた。


「寝る時はちゃんと、おやすみメールしてから寝てほしいッス」


なんで、そこまで。

普通に見えるけど普通じゃない。
今の黄瀬は、絶対おかしい。

返事を送る前にまた鳴り出した携帯をぼんやりと眺めて、ああまるでこの着信メロディは、警鐘のようだと。

どうしようもない、恐怖を覚えた。



 (鳴り止まない、鳴り終えない)


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