悪戯の末路に
あれから2日。
寒いな、なんて思いながら屋上でぼんやりとする。
怪我はやっぱりそんなに酷くなくて、もう後はちょっとした痣や切り傷が残ってる程度だ。痛みもほとんど無い。
自分の手を握ったり開いたりしながら、そばでちかちかと着信を伝える携帯は、見ないふり。
放課後の屋上は静かで、部活中の生徒の声もあたしのいる反対側がグラウンドだからかそんなに聞こえてこない。
今頃黄瀬は部活中、だろうか。
引退っていつ頃だったっけ。なんて。
「…どうでもいいか」
いろんな事が一気に起きすぎて、ひどく疲れてしまった。
黄瀬は悪くない、んだろう。と思う。
結局はあたしが悪い、のかもしれない。
そんなのわかるわけもない。
「なーにしてんだ」
不意に、空から声が降ってきた。
びくりと体を震わせて、見上げれば、貯水タンクのそばから顔をのぞかせる、青峰の姿。
青峰大輝。
あたしとの直接的な関わりはほとんどなかったけれど、黒子を通じて、黄瀬を通じて、たまに顔を合わせれば話すくらいの仲だった。
遅刻ギリギリで学校に来ることの多いあたしと、遅刻魔な青峰とは、それなりに遭遇する機会も多かった気がする。
部活はサボり、かな。
別に、とそっけなく返して、青峰がいるのならと屋上から立ち去るため、立ち上がろうとした。
けど、続く青峰の言葉に、ぴたりと動きが止まる。
「聞いたぜ、黄瀬のファンにぼこられたらしーじゃん。女の嫉妬ってこえーな」
「…青峰くんには、関係ないでしょ?」
「まあそう言うなって、心配してやってんじゃねぇか」
「それは、どうも」
うつ伏せに寝転がった体勢で頬杖をつき、にやにやとこっちを見下ろしてくる青峰の姿はまるでチェシャ猫のようだ。
わざとらしく溜め息をつけば、けらけらと笑う声が聞こえた。
「なあ、黄瀬のファンにぼこられずに済む方法、教えてやろーか?」
「…は?」
彼の顔から笑みは消えない。
こんなにも厭味ったらしく笑う人だったろうか、この人は。
昔は明るく笑っていたし、最近のバスケをしている最中はあまり笑わなくなっていた。
だからこそ余計に、青峰の浮かべる笑みの理由がわからない。
なにがそんなに、楽しいの。
「俺と付き合えよ、露木。黄瀬と違って俺にはファンなんかいねーし、気楽なもんだぜ?」
「…はあ?」
本日二度目の「は?」だ。最初よりは些かグレードアップしたが。
言ってることが理解できないと、青峰から顔を背ける。
「、…なんで」
そこには壁に姿を隠すように、黄瀬の姿があった。
影、見えてるし。腕も丸見えだ。
あたしの声で自分がそこにいるとバレた事を悟ったのか、黄瀬は怒りの浮かんだ表情を浮かべ大股であたしへと近寄ってきた。
ばっ、と青峰に顔を向ける。
やっぱり彼は、これ以上なく愉しそうに、笑みを深めていた。
「青峰っち、悪いけど、かえでは俺のだから、手ぇ出さないでもらえるッスか」
「っはは、わりーわりー。冗談だっての」
「冗談でも、いくら青峰っちでも、許さないッスよ」
きつく、息が出来ないほど強く抱きしめられ、この前の痣がうずく。
痛いとも離してとも言えず、黄瀬はそのままあたしを抱きあげると屋上から足早に出て行った。
黄瀬の背中越しに見えた青峰は、ほんの少し驚いているように見えた。
(やばいだろと、背筋が冷えた)
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