凍る傷口
次に目を覚ました時、目の前にいたのは黒子ではなく、黄瀬だった。
涙の溢れた瞳であたしを見下ろして、ごめんなさいと、何度も何度も口にしている。
あたしが起きたことに気付いても、謝罪の言葉は止まらなかった。
体はところどころ痛むものの、大した怪我ではない、らしい。
あちこちに貼られている湿布やガーゼに苦笑して、体を起こし、黄瀬に顔を向けた。
「何で、ここに?」
ぴたりと、黄瀬の言葉が止む。
ぼろぼろと涙を流したまま、握りしめた手をあたしに伸ばそうとして、…やめた。
「赤司っちに、呼ばれたんス。かえでが怪我して、保健室に運ばれたって、だから、俺…っおれ、のせいで」
「…そう」
黒子は、もう姿を消していた。
そんなに、会いたくないんだろうか。
前回のこともあって黄瀬に黒子について聞く気にはならず、ぷるぷると小さく頭を振って再び黄瀬へと向かい合った。
「涼太のせいじゃないから、泣くのも謝るのも、やめて」
「でも、俺が、俺のせいで」
「涼太がどうこうできた話でもないでしょう?あたしが怪我したのは女の子たちの所為だし、あたしの所為でもある。だから涼太が謝らないで」
どうしても言い方が冷たくなってしまうのは、さっき、思ったことが原因だろうか。
一瞬でも、あたしは思ったんだ。
こんな目に遭うくらいなら、黄瀬と付き合わなきゃよかったって。
そう思って、しまったんだ。
一度そう考えてしまえばその意識は払拭できなくて、頭が痛くなる。
目の前にいる黄瀬が好きで好きでたまらないはずなのに、今は傍にいて欲しくなかった。
「じゃあ、せめて、校門まで送るッス。お母さん、迎えに来てるらしいッスから」
寂しげな目線で、黄瀬が笑う。
つきんと痛む胸が、嫌で、仕方ない。
そんな顔で笑わないでって、ごめんって、そう言いたいのに、あたしの口は動かなくて。
差し出された黄瀬の手には触れられず、ひびが入ったような思考回路の中で、自分はどうしたいんだろうと考えた。
答えなんて、出るわけもなく。
(ごめんなさい、ごめんなさい)
← →
back