もういいかい? 



黄瀬と喧嘩をして3日。
学校でも口を聞いてない。というか、黄瀬はおずおずと話しかけてこようてはしてくれるんだけど、それをあたしがいつも避けていた。

今話しても進展しなさそうだし、結局堂々巡りになるだけなら、話さない方がいい。
これでもし、別れることになったとしても、それまでの関係だったって事なんだろう。
悲しいけど、仕方ない。

と、まあ、今はそんな現実逃避をしていられる状況では、ないのだが。

「露木さんさ、黄瀬君の彼女になったからって調子乗ってんじゃない?」
「結局あんただって黄瀬君に群がる女の1人でしかないんだからさ、自分は愛されてるんです〜みたいな感じでいられるとむかつくんだよね」
「さっさと別れてくんない?正直邪魔」

いつかは来るだろうと思ってはいた、黄瀬ファンからの呼び出し。
靴箱に「別れろ!」って書かれた紙が入ってるくらいの被害なら何度かあったけど、思いの外呼び出しは無いんだなあと思っていたら、これだ。
まあ数カ月もすれば別れるだろうと周りは思ってたんだろうな。それが意外と長く続いたから、強硬手段に出た、と。

どうしよう。
携帯カバンの中だし、ここ帝光中の中でも人通らない場所だからなあ…。
怖くない、と言ったら嘘になる。怖い。今すぐ逃げたい。
ああでもあの黄瀬よりはマシだなと小さく溜め息をついた。

それが癪に障ったらしい。

ぱあんと頬を打たれた。
あまりにも唐突な出来事に、唖然とする。

「別れろって言ってんのが聞こえないの!?」

そして頭上から、水。
呆然と見上げれば窓から下種い笑みを浮かべた女の子たち。ああ、臭い。雑巾でも洗った後の水だろうか。御苦労なことで。

「っは、きったな。そんな顔で黄瀬君の彼女になるからよ」

降りかかる罵詈雑言と、少しの暴力。
なんだかもう反応するのも疲れてしまって、あたしはされるがままになっていた。
頬を打たれる、髪を引っ張られる、突き飛ばされる、背中を蹴られる。
ああ、もう、散々だ。

こんな目に遭う、くらいなら。


「ー…っかえでさん!!」


喧騒を裂く、はっきりとした声。
いつも優しかったそれは、今は、怒りに満ちていて。
それはあたしがずっと探していて、でも、見つけることの出来なかった物だった。

人に見られたと、やばいと口々に吐き捨ててあたしの周りから去っていく女の子たち。

うずくまったまま、声の主が近づいてくるのを見上げて、あたしは安堵にも似た感情で微笑んだ。


「黒子くん、やっと見つけた」



 (もういいよ)


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