二人の失物、宝物 



それは唐突に、起こった。

「かえで、いい加減にして欲しいッス」

黄瀬の部屋で、久しぶりに2人きり、DVDを見ていたのが、何分前のことだったっけ。
目の前の黄瀬の剣幕に、思わず現実逃避紛いの事を考える。

ベッドにもたれるあたしの顔を挟むようにして、黄瀬が両腕をついた。

「黒子黒子黒子、さっきからずーっと黒子っちの話題ばっか。かえでは俺の彼女ッスよね?俺のこと好きなんスよね?それとも黒子っちに心変わりしちゃった?そんなん許さないッスよ?ねえ、何で、俺といんのに黒子っちの話しかしねーんスか?」
「涼、太…」

怖い。心の底から、そう思った。
この黄瀬を見るのは久しぶりだ。何ヶ月ぶり、だろう。といっても、2ヶ月そこらってとこだろうか。

反射的に謝れば、何で謝るんスか?と猫なで声で問われる。
やばい、どうしよう。
でも、なんで。
色んな感情が頭の中をぐるぐると回っていた。


あたしは、ただ、黄瀬も黒子のこと心配してるんじゃないかって、思って。
それにあたし自身も黒子が友達だから、心配で。
今日、この話題を出したのは失敗だったかもしれないけど、ただ単に、あたしとしては、共通の友達の心配をしているだけだったんだ。
でも、黄瀬にとってはそうじゃなかったらしい。

「…ごめん」
「だから、何で謝るんスか。俺は何で黒子っちの話しかしないの?って聞いてるんスよ」
「そ、れは…心配、だから」
「心配?なんで?それ俺より優先しなきゃいけないこと?黒子っちちゃんと学校にも来てるらしいし、俺にもかえでにも顔見せないってことは向こうが俺らに会いたがってないってことじゃないんスか?そんな黒子っちの心配なんか、かえでは、しなくてもいいッスよ」

本心からの言葉じゃないんだろう。
今の黄瀬はきっと怒ってる。あたしのせいで。
だからそんなこと、言ったんだって。

わかってはいるんだけど、カッとなった。

「さっきからなんかなんかって、黒子くんは涼太の友達だったんじゃないの?なのに探そうともしないで心配なんかしなくていいって、それじゃ黒子くんずっと見つからないじゃない。あたしが友達の心配して何が悪いの?それについて涼太がどうこう言う権利なんて無い」

「友達友達って言うけど、俺らの前から先に消えたのは黒子っちじゃないスか!俺の前からも、かえでの前からも!なんでかえでは俺よりも黒子っちのこと優先するんスか?やっぱり黒子っちのこと好きなんスか?」

「今してるのはそういう話じゃない!先に黒子くんが消えたっていうけどもしかしたら涼太達が先に黒子くん見捨てたんじゃないの?だから黒子くんも涼太達から離れてったんじゃないの?」

「質問に答えて欲しいッス!それに俺は黒子っち見捨てたりなんかしてないし、そんなの、アイツが勝手に!」


ぱんっ、と乾いた音が、黄瀬の部屋に響いた。

ぽろぽろと涙がこぼれてくる。
おかしいな、こんなことするために今日、黄瀬と遊ぶ約束したんじゃないのに。何でこうなったんだろう。

「さっきの答え。今の涼太より、黒子くんのがよっぽど好きだよ。ごめん、今日はもう、帰るね」

そう思ってはいても口は勝手に動いて、体も勝手に動いて。

目を大きく見開いて呆然としている黄瀬の体を押して、カバンを手に取ると足早に黄瀬の部屋を出た。
お邪魔しましたと声をかけ、家からも出る。

涙はなかなか、止まってくれなかった。



 (どちらも大切だからこその)


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