泡沫に消える影
今年の夏休みは、今までで一番楽しかった。
黄瀬とも楽しく過ごせたし、バスケ部のみんなとも出かけたりした。
けど。
8月に行われた全中を、見に行くべきではなかったなとあたしは思っていた。
帝光バスケ部の試合を観たのは、今年の全中が初めてだ。
黄瀬が喜ぶから、見に来てと頼まれたから、…それにあたし自身、黄瀬の活躍を見てみたかったから。
そして、黒子が気になったから。
見に行ったのだけど、あたしが思っていた以上に帝光バスケ部の試合は、ひどいものだった。
試合自体はすべて快勝の素晴らしいものだったと思う。
でも、チームプレイなんて無い、ただただキセキの世代と呼ばれる彼らが個人技だけを行使する…そんな試合。
コートの中でぽつんと佇み、ベンチで両手を握りしめる黒子が、見ていてただただ、切なかった。
そして黒子は引退を待たず、バスケ部を退部したらしい。
それ以降、夏休みが終わっても、黄瀬を含む他のバスケ部員は黒子の姿を見ていないらしく。
あたしは偶に図書室で見かける黒子の姿が、今はもう見えないことに、ショックを隠せなかった。
「かえで、元気出してくださいッス。黒子っちもきっとまた、顔出してくれるッスよ」
「うん…ごめん。涼太も黒子くんと話出来なくて、悲しいのに」
「俺は…そんな。…まあそれより!今日、放課後撮影あるんスけど見に来ない?みんなに内緒で、ね?」
「…そうだね、うん、行ってもいいなら…」
「もちろんッスよ!かえでが黒子っちのことばっか考えてるから、そんなの忘れちゃうくらい俺のかっこよさ見せたげるッス!」
…そんなの、か。
ありがとうと言ったあたしの顔は、笑えていたんだろうか。黄瀬が怪訝そうにしていないのなら、きっと笑えてたんだろう。
黄瀬も、赤司も、紫原も緑間も、青峰だって、黒子がいなくなったことに対して何も感じていないように思えた。
今まで、ずっと一緒にいたのに。
まるで黒子が泡になって消えちゃったみたいだ。
本当は黄瀬も、ほかのみんなも何かしら思うところはあるのかもしれない。
あたしはバスケ部には入ってなかったし、黄瀬や赤司以外とそこまで深い関係だったわけではないから、わからないだけで。
でも。
「みんな、黒子くんを探そうともしないなんて」
一人きりの屋上で、ぽつりとこぼす。
あたしは黒子を見失ったことなんてなかった。
初めて会った時からずっと、黒子がどこにいてもわかった、のに。
僕を見つけるのはかえでさんの特技ですねなんて、冗談ぽく笑った黒子の顔が浮かんできて、涙が出そうになる。
何度も校内を探した。
教室だって、図書室だって、屋上だって、彼のいそうなとこは全部。
なのに、いない。
黒子を、見つけられない。
「ごめん、黒子、…全然特技なんかじゃなかったよ」
膝を抱えて、もうすぐ秋が近づいていることを知らせるような風の冷たさに、身を震わせた。
(ふたりぼっちのかくれんぼ)
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