青春に、還る 



喧嘩をした、というわけではないけれど。
黄瀬と仲直りのようなものが出来て、良かったと思う。

やっぱりちゃんと言葉にして伝えるって大事なんだなあとぼんやり考えながら、目の前で話し半分に授業を聞いている黄瀬の背中を眺めた。
細いのにたくましい背中。
ああ黄瀬は後ろ姿でもかっこいいななんて、一人頭の中でのろけてみる。

ふ、と窓から入ってきたぬるい風が、頬を撫でた。


「っあーやっと授業終わったッス!かえで、お昼食べに行こ!」
「うん。今日はバスケ部のみんなは一緒?」
「一緒ッスよ、桃っちがたまにはかえでとも一緒に食べたい!って昨日ぷんすかしてたんで」
「そっか、確かに久しぶりだもんね。楽しみだな」

カバンから弁当箱を取り出し、黄瀬と並んで教室を出る。
みんなは部室にいるらしくて、今日は屋上で泣く部室でお昼を食べるらしかった。

黄瀬と付き合い始めてから、確かにバスケ部のみんなと一緒にお昼を食べる回数は減った。
それは黄瀬が嫉妬してしまうからだし、それを恐れてあたしがみんなを若干避けてしまっていたから、っていう理由がある。
でもこの前、黄瀬と2人、色んな話をしてから黄瀬があたしの行動に嫉妬する回数はだいぶ減った。
それでもやっぱり、例えば他の男子と手が触れてしまった時とか日直が被った時、とかは嫉妬されてしまうけど。それくらいなら可愛いものだと思う。
私だって女の子に囲まれる黄瀬を見て嫉妬しないわけではないのだし。…疲れるけどね。

「でもやっぱ、俺はかえでと2人っきりで食べた方が楽しいんスけどねー」
「…私もだよ。でも、みんなでわいわいしながら食べるのも、楽しいでしょ?」
「、…そッスね」

変な事言ってごめんと、黄瀬が苦笑した。

それを横目に見やって、うっすら思う。
黄瀬は、もしかしたらとても我慢してるんじゃないだろうか。
あたしを疲れさせないために。

ありがたい半面、なんだか申し訳ない気持ちになった。
そんな我慢を続けていたら、今度は黄瀬が疲れてしまうんじゃ、と。
あたしは疲れるのも嫌だけど、疲れさせるのも嫌なのに。


かと言って、良い解決策も浮かばない。
あたしが我慢するか、黄瀬が我慢するか。
結局その2つしか道はないんだ。

だったら良好な関係の築ける今が、最善なのかもしれない。

…あたしって自分本位な考え方ばかりしてるな。
はあ、と黄瀬に気付かれないよう、溜め息をついた。

「かえでちゃんっ!」
「わ、…久しぶり」

部室の扉を開く、と同時にあたしを抱き締めたのは桃井で。
その勢いに押されこけそうになったあたしを抱きとめてくれた黄瀬によって、見事な美男美女サンドになってしまった。真ん中のあたしがいたたまれない。

「桃っち、急に飛びついたら危ないッスよ」
「そーだぞさつき、もし開けたのが黄瀬だったらどうすんだ」
「大丈夫だよ!ちゃんときーちゃんだったら避けるもん!あ、ごめんねかえでちゃん…苦しかった?」
「ううん、大丈夫」

へらりと笑えば、桃井は嬉しそうに微笑んで元いた場所らしい、青峰の隣へと戻って行った。
あたしと黄瀬も室内に入り、余分なスペースの空いていた黒子と赤司の間に座る。
青峰、桃井、黒子、黄瀬、あたし、赤司、紫原、緑間の順で円になっている感じだ。椅子があるから、正確な円ではないけれど。

既に食べ始めていた青峰、紫原はおいといて、みんなでいただきますと言い弁当に箸をつける。

「あれ、そういや今日かえで、弁当なんスね。いつも購買で買ってるのに」
「今更だね…。これは、まあ…栄養って大事だから」

少し言い淀んだあたしに黄瀬が首をかしげる。

この弁当は、朝、赤司があたしに持たせたものだ。
最近うどん生活をしていたのがバレたらしい。野菜も食えと、これでもかってくらい素晴らしい弁当を渡してきた。本当に、お前はあたしのお母さんかと言いたい。
ありがたく受け取るあたしもあたしなのだけど。

でもその事実を黄瀬に伝えるのは、どうかと思って。
まあたまにはお母さんにも本領発揮してもらわなきゃねーなんて曖昧に笑って誤魔化せば、黄瀬もふうんと微妙な笑みを浮かべた。

「んじゃ卵焼きもーらい」
「ちょ、青峰っち!俺のかえでの弁当から泥棒ダメッスよ、絶対!」
「俺のーとか黄瀬ちんのろけてる〜」
「かえでさん、このきんぴらごぼう美味しいですね」
「って黒子っちまで!?」
「黄瀬、食事中は静かにしろ」
「埃が舞うのだよ」

わいわいと盛り上がるみんなを眺め、桃井と目を合わせくすくすと笑う。
いつの間にか減ってしまった弁当の中身にあーあと肩をすくめて、あたしもまた、みんなの会話の話の中に入っていくのだった。



 (あったかくて楽しい時間)


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