祈りの疑い 



「おはよう」と。

ふんわり、微笑んで。
そう言ったくれた彼女の姿に、ひどく安心した。

そう、俺は、安心したんだ。


俺はかえでが好き。大好き。
だからこそ俺は彼女のことを、よく見ている。と思う。

赤司っちと仲が良いとか、黒子っちといる時はとても優しい目をしているとか、緑間っちとのあの微妙な距離感を気に入ってるんだろうなとか、いろいろ。
もちろん1人でいる時の微妙な表情の変化、クラスの友人と話している時の笑顔、苦手な先生に用事を頼まれた時の嫌そうな顔。
全部、覚えている。
まるでその時その時のかえでの表情を写真に撮って、壁一面に貼り付けるように。
俺の頭の中は、かえでの姿でいっぱいだ。

だけど。

最近、気が付いた。

俺と一緒にいる時、かえではどうしようもなく哀しそうな目で笑っていることに。
俺が彼女を問い詰めている時、かえではひどく冷めた眼差しで、俺を見つめていたことに。

嫌だ、捨てられたくない。

もっと好きだって、かえでが大切なんだって、伝えなきゃ。
そう思った。
そう、思って。

モデルの仕事の時にもらったんスよなんて嘘をついて、じっくり念入りに2時間はかけて選んだアクセサリーをプレゼントしてみたり。
俺とおそろいにしよ?なんて微笑んで、ピアスを差し出してみたり。
毎日毎日メールを送って、時間があれば、電話をして。
声を聞くたび、顔を合わせるたび、かえでが大好きッスよ、って、口にして。


だから俺はそんなかえでが俺に向かっていつも以上に優しく温かな微笑みを浮かべてくれたのが嬉しくて嬉しくてたまらなく愛しくて仕方がなかった。

やっぱり俺の気持ちは伝わってたんだ、大丈夫、あの時のかえではちょっと疲れてただけ、だって今日はこんなにも笑顔で俺に接してくれている。
大好きだってはにかみながら真っ赤な顔で伝えてくれる。

「俺も、かえでのこと、世界で一番大好きッスよ!」
「ありがと、嬉しい」

そう呟いて、かえでは俺を見つめる。

…俺を、見ていてくれてるんスよね?
そうだよね、そうだと言って。

俺、かえでのことが好きなのに、かえでの言ってることがほんとだって、最近思えないんスよ。

なんでかな、俺が悪いのかな。
ねえかえで、声に出して、俺に伝えてよ。
俺のことが好きだって。
何で、ありがととしか、言ってくんないんスか?

「涼太、」

かえでが俺の名前を呼ぶ。
赤司っちや黒子っちを呼ぶ時とは、違う声音。違う、呼び方。

俺達以外誰もいない屋上を吹き抜ける風は、もう夏も真っ盛りなはずなのに、どこか冷たさを感じた。


「あたしね、ちょっと、疲れちゃったみたい」



 (そんなこと言わないで)


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