濁って、沈む 



もうよくあるパターンと化した、と言ってもいいだろう。

7月。黄瀬と付き合い始めて、2ヶ月経つか経たないかってところだろうか。
あたしは付き合い始めた日付を、記念日〜とか言って祝うタイプではないので、正直何日経ったのかあまり覚えていない。
その間、嫉妬に狂ったような黄瀬に問い詰められた回数も、覚えてはいない。


もう学校に行くのも面倒になってきた。
学校に行けば自分の意志に関わらず男子とも女子とも話す必要があるし、笑ってなきゃ友達だって不快になる。
それを嫌だと言われたところで、黄瀬のために友達を切るなんて薄情なこと、出来るわけがない。
普通だ。それが、常識だと思う。
あたしが冷たいだなんて言われても、それはあくまで見解の相違でしかないと思う。

…こんなこと考える時点で、あたしはもう駄目なんだろうか。


ご飯ものどを通らない。とりあえず飲み物だけは適当に、その日飲めそうなものを飲んでいる。
夜もまともに眠れない。寝ようとしたら、黄瀬のあの顔が、声が、浮かんで。

いやになる。


好きなのに、腹が立つ。
好きだから、悲しい。

そんなにあたしの愛情表現は足りないのだろうか。あたしなりに、精一杯、伝えているつもりなのに。
そんなにあたしが信用出来ないのだろうか。あたしは、黄瀬以外の男と手を繋ぎたいとか抱き締めあいたいとか、思わないのに。
それを伝えたところで、黄瀬には、届かない。

遣る瀬無い。
うん、これがしっくりくるな。


「…、…かえで!」
「うい、った」
「お前、顔色悪いぞ。また食べてないのか」
「赤司…くん」

そっか、ここ廊下だった。なに窓際でぼーっとしてんだろう、あたし。

はたと気がついて、とっさに周囲を見渡す。
大丈夫、黄瀬はいない。こんな、赤司と2人で話しているところを見られたら、また…。

落ち着かない様子のあたしを見て赤司は訝しげな表情を浮かべる。
やば、い。
大丈夫だよごめんねと早口で返事をして、じゃああたし次移動だから行くね、って赤司から離れようとして。
一歩、踏み出した瞬間。

「ーっかえで!?」

ぐにゃりと、世界が歪んだ。







――…軽い栄養失調ですね、とりあえず点滴を…
――…最近なにか精神的なストレスを感じることが…


ぼんやり、そんな声が聞こえてくる。
その声に対して返答しているのは、赤司、とお母さんだろうか。
においからして此処は病院だろう。てことは、あたし、倒れたのか。そんなとこまで来てるとは、思ってもいなかった。
ご飯食べなくても水分とってたし、大丈夫かと。

瞼を押し上げ、ゆっくり起き上がる。
あたしが起きたことに気が付いた赤司がいち早くこっちへと歩み寄り、背中を支えてくれた。

「さっきの話、聞こえていたか?」
「…ん…ストレスがどーのってのと、軽い栄養失調って」
「…何で自分がこうなったかくらい、わかっているな」
「、…」

返事に、戸惑った。

原因なんてわかりきっている。ひとつしか、ない。
でもそれを、自分が倒れてしまった原因にしてしまうには、それはあまりにも優しすぎて、脆すぎて。

心配そうに、けれどちょっと怒ったような視線であたしを見つめる、赤司とお母さん。
まるでお母さんが2人いるみたいだなんて、ふざけたことを思いながら苦笑を浮かべた。

「ダイエット、失敗しちゃったみたいで」

ひどく、赤司が嫌悪感のようなものを露わにした表情を、していた。
でもその目はあたしを見ているようで、見ていなくて。

あたしの脳裏に浮かぶ黄瀬の姿を、睨んでいるように思えた。



 (浮かんだ言葉は飲み込んだ)


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