白昼夢のような 



お気に入りの服を身にまとって。
いつもはしないメイクもちょっとだけして。
彼に合うように高いヒールのサンダルを履いて。
携帯で時間を確認したあたしは、いってきます、と家を出た。

今日は、黄瀬と初デートです。

待ち合わせは駅の噴水前。定番。
約束の時間は昼の1時。10分前に来たのにも関わらず、黄瀬はもうそこにいて、そして女の子たちに囲まれていた。
まああんなイケメンモデルが1人で立っていればそうもなるだろうと思う。

困ったように笑って女の子達の相手をしている黄瀬に、まったく何も思わないと言ったら嘘になる。
でも、仕方ないっていう気持ちの方が強いし、そう思っていたところでどうしようとも思わない。

とりあえずその状況を遠目に眺めながらぼーっとするのも馬鹿らしいので、「着いたよ」と一言、黄瀬にメールを入れた。
携帯を取り出してきょろきょろと周囲を見渡す黄瀬。数秒後、あたしに気が付いた黄瀬は女の子たちにごめんねと謝りながらあたしの方へと駆け寄ってきた。

「来てたなら話しかけて欲しかったッス…」
「ごめん、でもあの輪の中に入って?むりむり」

しょんぼりとしながらの言葉に苦笑を返す。
黄瀬の周囲にいた子たちは「え、彼女?」「うっそ」みたいな、困惑と羨望と嫉妬の混ざったような顔であたし達を見つめていた。
そんな彼女たちに小さく会釈をして、黄瀬に行こ、と告げ踵を返す。
手を繋ぐなんて、そんなことはしない。

「どっか行きたいとこあるッスか?」
「んー…黄瀬くんセンス良いし、服とか一緒に見たいかも。新しい靴欲しいんだよね」
「いいッスね!俺も新しい服欲しかったし、良い店知ってるからそこ行こ!」
「うん、楽しみ」

にこりと笑う。黄瀬も楽しそうに嬉しそうに笑ってくれた。

その後は黄瀬に服や靴を見つくろってもらったり、本屋で黄瀬の載っている雑誌を買ったり、喫茶店でいろんな話をしながらぼんやり過ごしたりした。
やっぱりそれなりに有名なんだろう、帽子をかぶって顔を隠していても溢れ出るイケメンオーラに、ちょくちょく黄瀬が女の子に囲まれる事件は発生した。その度にあたしは一歩離れた場所でほとぼりが収まるのを待っていたのだけど。

「ううー…ごめんッス露木さん、俺のせいでどたばたしちゃって…」
「気にしないで。こういうの初めてだから、ちょっと楽しかったし」

眉尻を下げて、申し訳なさそうにあたしを見てくる黄瀬はかわいい。本当に、子犬みたい。背は大きいけどね。
ずっとこの調子でいてくれるのなら、黄瀬と一緒にいるのも悪くないと思う。

通りかかったゲームセンターに、そうだプリクラ撮ろ!と黄瀬に手を引かれた。
そういえば今日、黄瀬に触れたのはこれが初めてかもしれない。
もしかして黄瀬はずっと手を繋ぎたいと思っててくれたのかな、なんて自惚れたことを考えながら少し笑った。

と、どんっと足が誰かに触れた。
「うあっ」という声が、ぶつかった相手から漏れる。どうやらゲーム中にぶつかってしまったらしい。
どうしよう、と立ち止まればあたしの手を引いていた黄瀬も立ち止まった。
音楽ゲーム。その曲が終わったと同時に、くるりとその人が振り向いた。

「あ、のごめんなさい。ぶつかっちゃって…」
「…、」

むすん、としているのがわかる。
スコアが下がってしまったのだろうか。ゲームの画面にはC、と書かれていた。

「いや、俺こそ足後ろに出してたし、すんません。怪我無かったですか」
「大丈夫です。本当に、ごめんなさい」
「いーっていーって、デート?楽しんでください」

姿勢を元に戻して、ぴっぴっ、とゲームの操作を続ける人。
思いのほか良い人だなあ、と思っていたら。

ぎり、あたしの手を掴む力が、強くなったのを感じた。
鈍い痛みに顔を上げる。
悲しみとも怒りともつかない表情で、黄瀬があたしを見下ろしていた。

「、…っ」

息が詰まる。

あの、黄瀬だ。

怖いというか、理解ができないというか。
黄瀬はそのまま、あたしの手を引いてゲームセンターを足早に出る。
どこに向かおうとしているのかって疑問と、ああプリ撮れなかったな、という諦めにも似た感情でゲームセンターの中をちらりと見やった。
さっきの人が心配そうな顔で、こっちを見ていた。



 (やっぱり、だめなの?)


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