君と交わす、 



どこから聞いてた?と努めて優しく問いかけるあたしに、黄瀬はおろおろと目線を泳がせて目にじんわり涙を浮かべていた。
まだ怒られると思っているのか。別にまったく怒ってなんていないのに。

「く、黒子っちが、露木さんの事、好き、って…言ってたとこ、から」
「…そう」

黄瀬のことについて相談してたところは聞かれてなかったらしい。ちょっと、安心した。
そこを聞かれたらまるであたしが黄瀬のこと好きみたいに思われかねないし。
でも現時点で黄瀬は、あたしと黒子が両想いだと勘違いしてんのか。あたしの好きも黒子の好きも、友人としての感情だと後で説明しなくてはいけない。

「ち、違うんスよ!俺、次の授業で地図使うから取ってきてくれっ、て、担任に頼まれて、だから、盗み聞きしてたわけじゃ…っ」
「わかってるから、落ち着いて、ね?黄瀬くん」
「…露木、さん…」

やんわりと、黄色のさらさらとした髪の毛を梳くように撫でる。
目を細めてくすぐったそうに、それを享受する黄瀬がとても可愛く思えて、それと同時に愛しく感じた。
すぐに我に返って、そんな考えは振り払ったけど。

「最近、黄瀬くんがなんだかおかしいなって黒子くんに相談してた」
「、俺、が?」
「…ん、あたしがなんかして、黄瀬くんを傷付けちゃったのかと思って」
「そんな…っ、露木さんはなんも悪く無いッス!ただ、俺が、…」
「…なら、良かった。でも、何かあったのはほんと、だよね。話せるなら、教えて欲しいな」

俯いてしまった黄瀬の頭を撫でながら、顔を覗き込む。

顔を赤くして、涙目な黄瀬と、視線が絡んだ。
瞬間、黄瀬の体がふるりと震える。

疑問符を浮かべるあたしの、黄瀬の頭に触れている手をぱしりと掴まれた。
そのまま、この前体育館でされたみたいに、両手を一纏めに、黄瀬の手で包み込まれる。
ぞくりと、寒気がした。
嫌な、予感が。


黄瀬の名前を呼ぼうと、顔をあげる。
上げた瞬間、目の前に、本当に目の前に黄瀬の顔があって。
噛みつくように、唇をぶつけられた。

「っ、!?」

角度を変えながら、何度もちゅ、ちゅと口づけを落とされる。
何でこうなった?なんで、黄瀬があたしに。
あたしはこうなろうと思って、行動したわけじゃないのに。

舌を入れては来ないけれど、唇をぺろぺろと犬がじゃれてくる時みたいに舐められる。
普通のキスだって、ディープキスだって、それ以上の事だって経験が無いわけじゃない。
それなのに執拗に押しつけられる黄瀬の唇が、舌が熱くて、顔に、握りしめられた手に、熱が集まるのを感じた。

「ちょ、き、せ…っ」
「ん…かえで、かえでっ…好き、好きッス。大好き、」

離してと、掴まれたままの手で精一杯黄瀬を押し、顔を背ける。
でもそんなの意にも介さずに、顔を背けた結果黄瀬の目の前に晒された耳を今度はぺろぺろと舐め出して。
いよいよもって犬のよう…じゃなくて、やばい。

ここは学内の図書室だ。
そんなとこでモデルの黄瀬とこんなことしてるなんて、いやしてるってあたしの同意の上じゃないけど、とにかく見られたらやばい。
黄瀬もやばいけどあたしがやばい。黄瀬のファンの手で葬られてもおかしくないレベルだ。

掴まれた手をいったん引き、一気に黄瀬の腹目がけて押す。
大した威力ではなかったものの突然の腹部への衝撃に驚いたのか、黄瀬が目を丸くして小さくせき込んだ。

「やめて。ここ学校なんだし、あたしと黄瀬はそういう関係でも無い。あたしは、黄瀬とこういうことがしたくて黄瀬の心配したんじゃない」

思わず、くんを付けるのを忘れてしまった。
いつも心の中では黄瀬くんだなんて呼び方しないから。
やっぱり、平静ぶってても混乱しているらしい。

黄瀬はしゅんとした表情であたしの手を離す。
わかってくれた、かな。なんて思ったのも束の間。ぎゅうと今度は抱き締められた。手ぇ離して今度は全体ってランクアップしてんじゃないか。

「ごめん、露木さん、俺…おれ、露木さんが好きッス。露木さんが黒子っちのこと好きでも、俺は露木さんのそばにいたいし、いさせて欲しい。俺を見て、俺の名前呼んで、お願いッス、おれ、には、露木さんが必要なんス」

困ったなあと下にたらしたままにしていた手を黄瀬の背中にまわして、ぽんぽんと軽く叩いた。もう片方の手では頭を撫でる。泣いている子供をあやすかのように。
自分の肩がじんわり濡れていくのがわかる。泣いているんだろう、この人は。

自惚れや自意識過剰ではなく、黄瀬はあたしのことが本当に好きなのか。これでもし演技だったりしたら、黄瀬はすぐにでもモデルから俳優に転向すべきだ。

…何て言えばいいのかわからない。
あたしも好きです?いや、あたしは黄瀬に恋愛感情は抱いてない。
ごめん、無理?…今の黄瀬にそんな言葉を投げかけるのは、難しい。
ありがとう、嬉しい?そんなん自分も好きだって言ってるようなもんじゃないか。

まあ黄瀬の熱烈な告白への返事はともかく、黒子との誤解だけはとりあえず解いておこう。

「あたしは、恋愛感情で黒子くんを好きになった覚えはないよ」
「っえ?でも、さっき」
「あの好きは友達としての好き。黄瀬くんの誤解だよ」

ふわり、嬉しそうにはにかんだ気配を感じる。顔が見えないからわからないけど。
そっか、良かったッス、ぽつりぽつりと呟いて、黄瀬があたしを抱き締める力が強くなった。
そろそろ、始業のチャイムが鳴ってしまうんじゃないだろうか。

「じゃあ、俺の事は、すき?」

チャイムが鳴る。
それと同時に落とされた爆弾に、どう答えたものかと、ああ遅刻だなあなんて遠い目をしながら考えた。



 (現実逃避だなんて、わかってる)


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